気になった文章を抜書きします。
「どこかずっと遠くに、下品な島があるんです。名前はありません。
名前をつけるほどの島でもないからです。とても下品なかたちをした
下品な島です。そこには下品なかたちを椰子の木がはえています。
そしてその椰子の木は下品な匂いのする椰子の実をつけるんです。
でもそこには下品な猿が住んでいて、その下品な匂いのする椰子の実を
好んでたべます。そして下品な糞をするんです。
その糞は地面に落ちて、下品な土壌を育て、その土壌に生えた
下品な椰子の木をもっと下品にするんです。そういう循環なんですね」
略
「ある種の下品さは、ある種の淀みは、ある種の暗部は、
それ自体の力で、それ自体のサイクルでどんどん増殖していく。
そしてあるポイントを過ぎると、それを止めることは誰にも出来なくなってしまう。
たとえ当事者が止めたいと思ってもです。」
「私がその井戸の中でいちばん苦しんだのは、その光の中にある何かの姿
を見極められない苦しみでした。
見るべきものを見ることができない飢えであり、知るべきことを
知ることのできない渇きでありました。
その姿をはっきりと明確に見ることができたなら、
私はこのまま飢え乾いて死んだってかまわないと思いました。」
本当に私はそう思ったのです。私はその姿を見るためなら
何を犠牲にしてもいいと思っていたのです。」
「私はただなんとかそのぐしゃぐしゃに近づきたかっただけなの。
私は自分の中にあるそのぐしゃぐしゃをうまくおびきだして
ひきずりだして潰してしまいたかったの。
そしてそれをおびきだすためには、本当にぎりぎりのところまで行く
必要があるのよ。
そうしないことには、そいつをうまくひっぱりだすことができないの。
おいしい餌を与えなくちゃならないの」
略
「今のところ誰にも私を救うことはできない。ねえねじまき鳥さん、
私には世界がみんな空っぽに見えるの。
私のまわりにある何もかもがインチキみたいに見えるの。
インチキじゃないのは私の中にあるそのぐしゃぐしゃだけなの」
「今僕のいる世界と、叔父のいる世界とのあいだには、目に見えない
厚く高い壁のようなものがあった。
それはひとつの世界と別の世界を隔てる壁だった。
叔父はあっちの世界にいて、僕はこっちの世界にいた。」
「僕は逃げられないし、逃げるべきではないのだ。
それが僕の得た結論だった。
たとえどこに行ったところで、それは必ず僕を追いかけてくるだろう。
どこまでも。」
「つまりね、あなた自身はすごくマトモなのに、実際にはものすごく
マトモじゃないことをしてるし、それになっていうのかなぁ……うん、
ヨソク不能だしね。だからあなたのそばにいると、ぜんぜん退屈しなかった。」