読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

「空気」の研究

「そして、教育勅語のように言語もしくは名称が写真とともに偶像となり、礼拝の対象となって、この偶像へ絶対帰依の感情が移入されれば、その対象は自分たちを絶対的に支配する「神の像」となり、従って、天皇が現人神となって不思議でないわけである。
(略)

だが面白いことに明治以降のいかなる記録を調べても、天皇家が「自分は現人神であるぞよ」といった宣言を出した証拠はない。


従って、「人間宣言」を出すべき者は、現人神だと言い出したものであっても、現人神だと言われたものではないはずである。」


「では以上のような「天皇制」とは何かを短く定義すれば、「偶像的対象への臨在感的把握に基づく感情移入によって生ずる空気的支配体制」となろう。天皇制とは空気の支配なのである。従って、空気の支配をそのままにした天皇制批判や空気に支配された天皇制批判は、その批判自体が天皇制の基盤だという意味で、初めからナンセンスである。」


「決断をだらだらと引き延ばしても、別に大したことにはならない状態にあった日本では、これでも支障はなかったのであろう。徳川時代を見ていくと、幕府の成立からその終末までに、真に大きな運命的な決断を必要としたという事件は皆無に等しいからである。」


「だが中東や西欧のような、滅ぼしたり滅ぼされたりが当然の国々、その決断が、常に自らと自らの集団の存在をかけたものとならざるを得ない国々およびそこに住む人々は、「空気の支配」を当然のことのように受け入れていれば、到底存立できなかったであろう。」


「だが、われわれの祖先が、この危険な「空気の支配」に全く無抵抗だったわけではない。少なくとも明治時代までは「水を差す」という方法を、民族の知恵として、我々は知っていた。」