読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

日本はなぜ敗れるのか _敗因21か条

「そしてこの奇妙な現象は、常に日本に発生するのである。そしてこの被害はすべての人間がうけ、今もうけているわけだが、小松氏の記録から、それに関連する箇所を引用してみよう。


『文官   軍政下、いや武家政治下の文官の存在は、哀れというよりほか表現のしようがない。(略)そして文官には「同等以上の階級の軍人には敬礼すべし」と命じ、軍人には「同等以上の文官には敬礼しても差しつかえなし」と許している。

武官と文官は万事この調子で区別されている。

文官の方は将校と見れば、自分の方が社会的地位も、官等も俸給も上だと考え、軍人等は何も知らぬと馬鹿にする。武官は「軍属か?」と慰安所の女より下らぬ、何の役にも立たないものだと、てんで問題にしない。それは軍人同士でも本科将校が特科将校を馬鹿にして、優越感を一人で持っているのより、一段と甚だしいものがある。


こんな具合だから両者がうまく連絡取れる道理はない。それでも状況の良い時はお互いに仕事の分野も定まっていたから良かったが、少し状況が悪くなれば何をするにも兵力がなければ何もできなくなり、文官はいよいよ無用の長物となった。

国家総力戦というのに、文官は毎日する仕事もなく、ただ仕事をしているふりをしたり、堂々と遊んだり、各々の人柄により勝手なことをしていた。そして皆、不平ばかり言って酒を飲むこと、女と遊ぶことに専念していた。

これが民間会社なら忽ち破産する様相を呈していた。』



『イピイル酒精工場   (略)現在は砂糖がないので製造を中止しているという。後に垣兵団の主計将校に「砂糖がなくては酒精は出来ません」と言えば驚いて、感心したのか、困ったのか分らんような顔をしているのにはあきれてものが言えなかった。工場だけあれば酒精は出来ると思っていたらしい。(後略)』


『ブタノール工場中止   (略)工場は出来ても石炭が運べんので運転見通しがたたず、やむなく工事を打ち切り工場資材を他に転用することになった。比島のブタノールは当分だめということに決まった。(略)

早々人事係のところに行き内地や台湾では醗酵技術者が不足して困っている時故、御用済みの我々を直ちに帰国させるように交渉した。すると「軍属は用があっても無くても一年は南方におらねばならない。第一、一年もたたないうちに民間から採用した者を帰しては軍の威信にも関わる。

あなた方の勲章にも関係がありますからしばらく我慢してくれ。皆そうなのだから」という。戦争に勝つために是非必要だからというから、会社を辞めて来てみれば何のことはない。憤慨してもどうにもならない。

「それなら毎日遊ばせておかずに仕事を与えよ」と交渉すれば「そのうちに何とかします」という。煮え切らん話。「勲章は不要故、帰るチャンスがあったら取り計らってくれるように」と頼んで帰る。』

当時、実情はどこでも同じであった。そして最近の地方自治体の内部事情などを聞くと、今もただ主役が交替しただけで、基本的には、これときわめてよく似た状況が現出しているように思う。」