読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

中空構造日本の深層

「両氏の研究は多岐にわたっているが、主としてフランスのデュメジルの分析法に従い、彼がインド=ヨーロッパ語族のパンデオンの構造を、主権機能・戦士機能・生産者機能のいわゆる三機能体系をもつことを明らかにしたのにならって、日本神話においても、そのような体系が見いだされることを明示している。」


「欧米で心理療法家として訓練を受け、日本で実際に行ってみると、もちろん欧米での教育が大いに役立つのであるが、それはそのまま日本人に適用できないことも痛感されるのである。

日本人の心の在り方が西洋人のそれと異なっていることが実感されるのである。」



「神話はものごとを説明するためでなく、「基礎づける」ために存在するというのは、ケレーニィの名言である。彼は「神話は本来、「なぜ」に答えるものではなく、「どこから」に答えるものである」と言う。」



「「古事記」のパンテオンの構造のなかに、筆者は日本人を基礎づける根底を見る想いがしたのであるが、それはまさに根底として、日本人の思想、宗教、社会などの構造の目に見えぬ支えとして存在しているように思われるのである。」



「妻のイザナミを黄泉の国に訪ね、そこから帰り来たイザナキは、いわゆる三貴子、アマテラス、ツクヨミ、スサノヲを生む。」


「ここに誰しも疑問に思うのは、イザナキの言葉に示されるように、明らかに同等の重みをもって出現した三神のうち、ツクヨミに関する物語が、「古事記」にほとんど現れないということである。」


「日本人は太陽暦ではなく太陰暦を用いていたのであり、月の存在は、日常生活において大きい役割を占めていたと思われる。にもかかわらず、神話体系のなかで、ツクヨミはほとんど無為に等しい役割を持たされているのである。」



「「天地初めて発けし時、高天の原に成れる神の名は、天之御中主神。次に高御産巣日神。次に神産巣日神。此の三柱の神は、並独神と成り坐して、身を隠したまひき。」

まさに世界のはじまりのときに成る神として、この三神が重要であることは誰しも疑わないであろう。」


「つまり、ここでまず強調したいことは、アメノミナカヌシという、明らかに中心的存在であることが名前によって窺われる神が、神話体系のなかで、ツクヨミと同じくまったくの無為な存在であるという事実である。」


「今まで述べてきたことをまとめて考えてみると、三人の神(海幸・山幸の場合は人間に近くなっているが)の中心が無為であるという共通点が明確になって来る。」


「すなわち、水と火という極めて聖性の高い物質によって清め、鍛えられることによって、生まれ出てくる子供の品位を高めようと意図された、と思うのである。」


「以上の考察によって、それぞれの三神は日本神話体系のなかで画期的な時点に出現しており、その中心に無為の神をもつという、一貫した構造を持っていることが解る(次ページの表参照)。

これを筆者は「古事記」神話における中空性と呼び、日本神話の構造の最も基本的事実であると考えるのである。日本神話の中心は、空であり無である。このことは、それ以後発展してきた日本人の思想、宗教、社会構造などのプロトタイプとなっていると考えられる。」