〇 読み終わりました。すごく面白かったです。
特に、「銀の都アマルガント」以降は、相当に入り込んで、久しぶりに「夢中になる」という感じを味わいました。
バスチアンがどんどん変わっていく様子に、ハラハラドキドキでした。
「星僧院」あたりでは、もう終わってしまうのか…と、少し間を置きながら読みました。
読みながらいろんなことを考えたのですが、引用して感想を書いてる余裕がありませんでした(^-^;
読んだ時の感想をもう一度振り返ることは、出来ないので、
チェックした文章をメモしてゆくだけにします。
「だが、輿をすでにゆうべ送り届けておいたということは、この女は、初めからここへ来ることになるのを知っていたわけだ。これはみんな、この女の計画だよ、バスチアン。
きみの勝利は、実のところ敗北なんだ。この女は自分の手管で君を自分のものにするために、わざと君を勝たせたのだ。」
「わたくしの意志によってでございます。」サイーデはにっこりと笑ってみせながら答えた。「からっぽだからこそ、わたくしの意志にしたがうのでございます。中身のないものならなんでも、わたくしの意志で操ることができるのでございますよ。」
「バスチアンは、もう先を聞く気持ちがなくなり、のろのろと立ち去っていった。冷えびえとしたはてしない空虚よりほか、何も感じなかった。
今はもう何もかもどうでもいいという気持ち、_サイーデが言ったとおりの気持ちになっていた。」
「バスチアンはくる日もくる日も、たいてい自分用に選んだ居間でただじっとすわり、ぼんやりと一点をみつめたままで、何もしなかった。
何かを望んでみたり、たのしい物語を考えたりしたいと思うのだが、もう何一つ思い浮かばなかった。
頭も心もがらんどうになった気持ちだった。」
「バスチアンは、モンデンキントの瞳を思った。(略)バスチアンは何度も何度もむりやり呼びよせようと試みた。その度に、あの心の中で光り輝いていたものへの記憶がうすれてゆき、ついに光が失せ、心の中は闇になった。」
「アトレーユの側にもサイーデの魔法の力に優るとも劣らぬ白魔術師が一人、いやもっと大勢いたといういい伝えがたくさん残っている。
たしかなことはわからない。黒甲胃を相手に、どうしてアトレーユとその軍勢がエルヘンバイン塔の征服に成功したかが、それで説明がつくかもしれない。
だが、もっと真実だと思われる理由がもう一つあった。それは、アトレーユは自分のためではなく、友のために戦ったのだということだ。友を打ち負かそうとしたのは、その友を救うためだったのだ。」
「「裏切りもの!」バスチアンはどなりかえした。「おまえは私がつくってやったんだぞ!何もかも、わたしがつくったんだ!おまえもだ!そのわたしに逆らうのか?
ひざまずいて、赦しを乞うんだ!」
「きみは狂っている。」アトレーユはいった。「きみは何一つつくっていない。みんば幼ごころの君のおかげなのだ。さあ、アウリンをよこしたまえ!」」
「一軒一軒の建物も狂っていた。玄関が屋根についていたり、会談が登れるはずもないところにあったり、頭を下にして降りなければならなかったり、しかも降りたところは空中でなんにもないというぐあいだった。
塔は斜めに立ち、バルコニーは壁から垂直にぶらさがり、ドアのあるべきところに窓があり、壁のはずが床になっていた。(略)
一言でいえば、この町は、狂気そのものに見えた。」
〇 ここで、ふと思い浮かんだのは、あの「サピエンス全史」の「自分の望みが何なのかを知らない神ほど危険なものがあるだろうか」という言葉。
「バスチアンは何度かためしてみたが、どんな質問をしても答えは返ってこなかった。
「あの連中にいくらきいてもむだだよ。」不意に、きゃっきゃっという声が聞こえた。「すっからかんになっちまってるんだから。からっぽ人間って名づけてもいいな。」
「「いいから、きなよ!」アーガックスは声をひそめていった。「ただなんだから。あんた、入る資格はもうあるよ。そのための支払いはすっかりすませてるじゃないか。」
「帰りたいと望まなきゃならんのに、この連中、もうなんにも望まなくなってるのさ。みんな、最後の望みを何か別のことに使っちまったんだな。」
「そうじゃないさ!そうじゃないさ!」猿は騒がしくいった。「あんたが望むことができるのは、あんたの世界を思い出せる間だけ。ここの連中は、記憶をすっかりなくしちまった。過去がなくなったものには、未来もない。(略)
こいつらには変わりうるものが、もうないのさ。自分自身がもう変われないんだからな。」
〇ここで、思い浮かんだのも「サピエンス全史」。
「男の子が重い金槌で地面に落ちている靴下に釘を打ち込んでいるかと思うと、太った男の人がシャボン玉に切手をはろうとしていたもちろんしゃぼん玉はその度にはじけたが、男はやめずにまた吹いてシャボン玉をこしらえた。」
「何をしているんだ?」バスチアンは小声でたずねた。「なんの遊びだ?なんていう遊びだ?」
「出まかせ遊びだ。」アーガックスは答えた。そして遊んでいる人に向かって手を振り、叫んだ。
「よしよし、いい子だぞ!その調子、その調子!やめるんじゃないよ!」
それからまたバスチアンの方に向き直り、耳もとでささやいた。
「連中はもう話ができないんだ。ことばを忘れちまってるからな。
だから、おれがあの遊びを考え出してやった。ほら、一所けんめいにやってるだろ。
とても簡単なのさ。ま、ちょっと考えてみりゃ、あんたにもわかるだろうがね、世界中の物語は、とどのつまり、アルファベット26文字からできている。」
「「アーガックス、教えてくれ、わたしはどうすればいいんだろう?」
「あんたの世界に連れもどしてくれる望みを一つ見つけることだな。」」
「だが、望みというのは、好き勝手に呼びおこしたりおさえつけたりできるものではない。そのための意図がよかろうとわるかろうと、望みはあらゆる意図よりはるかに深い深みからおこってくる。
しかもそれは、ひそかに、気づかないうちにおこってくる。」
「それが動き始めたのは、バスチアンが、イスカールナリたちの共同性はそれぞれまったく異なる思いを一つに調和させて出来たものではなく、かれらは共同体としての感情を持つことになんの努力もいらないほど、もともとそっくり同じなのだということに、はじめて気づいた日々だった。」
〇イスカールナリの物語を読んでいると、かご細工なども出てきて、なんとなく、「東洋」の人々の雰囲気を感じます。
「それがはっきりしたのは、その後しばらくして、一羽の大霧がらすが空に姿を現した時のことだった。イスカールナリはみなこわがり大急ぎでデッキの下にかくれたが、一人だけ逃げ遅れた。すると恐るべき大霧がらすは鋭い鳴き声とともにとびかかり、その不運な男をくちばしでつかみ運び去った。
危険が過ぎ去ると、イスカールナリはみな出てきて、まるで何ごともなかったように、歌をうたい舞を舞って旅をつづけた。悲しみも嘆きもせず、今のできごとについて一言はなすでもなく、それまでどおり和気あいあいとしてたのしそうだった。
バスチアンがそれを問いただすと、一人がいった。「いいえ、わたしたちはちゃんとそろっていますよ。どうして嘆くわけがありますか?」
かれらのもとでは、一人一人の個人は問題ではないのだった。みなそっくり同じで区別がないのだから、かけがえのない個人はいないのだった。
けれどもバスチアンは、一人の個人でありたかった。他のみなと同じ一人ではなく、一人の何ものかでありたかった。
バスチアンがバスチアンであるからこそ、愛してくれる、そういうふうに愛されたかった。イスカールナリの共同体には和合はあったが、愛はなかった。」
〇私たち日本国は「和合はあるが、愛はない」というほど、極端な「イスカールナリ」では、ありません。
愛はある、と言いたいところです…。
でも、現実の人々の行動を見ていると、福島で避難せざるを得ない人びとに対して、
国はその補償に期限をつけています。
日本国民という集団を守るためには、一人二人の「イスカールナリ」が酷い目にあうとしても、かまわない、という態度です。
そして、それを見ている他の国民も、日々、そんなことにはかまっておられない、と「悲しみも嘆きもせず、今の出来事について一言話すでもなく、和気あいあいとして楽しそうに日々を過ごしています。
日本に大霧がらすは襲ってきません。
和合はあっても愛はない。
「バスチアンは、最も偉大なものとか、最も強いものとか、最も賢いものでありたいとは、もはやおもわなかった。そういうことは、すべてもう卒業していた。今は、愛されたかった。しかも、善悪、美醜、賢愚、そんなものとは関係なく、自分の欠点のすべてをひっくるめて_というより、むしろ、その欠点のゆえにこそ、あるがままに愛されたかった。
しかし、あるがままの自分はどうだったのだろう?バスチアンはもう忘れてしまっていた。」
「(略)
さがしているものも、欲しいものも、
やすらぎも、なぐさめも。
つらいことがいっぱいだったわね。
いい子だったにしろ、わるい子だったにしろ、
あるがままでいいのです。
だって あなたは
遠い遠い道をきたのですから」
「それは、ぼうやにはとても大切なことでした。ぼうやはそれまで、自分とはちがう、別のものになりたいといつも思ってきましたが、自分を変えようとは思わなかったからです。」
「「いいえ、私はそう思わないわ。あなたは望みの道を歩いてきたの。この道はけっしてまっすぐではないのよ。あなたも大きな回り道をしたけれど、でもそれがあなたの道だったの。(略)
「そこへ通じる道なら、どれも、結局は正しい道だったのよ。」
それを聞くと、バスチアンはいきなり泣き出した。なぜなのか、自分でもわからなかった。」
〇 あの「夜回り先生」の「いいんだよ」を思い出します。
「おばさまはバスチアンの髪をなぜた。「心配しなくていいのよ。時間はかかるだけかかるものなの。あなたの最後の望みが目覚めたら、そのときは、あなたにわかるわ_わたしにも。」
「それは、これまで一度も感じたことがなく、あらゆる点でこれまでの望みとはぜんぜんちがう欲求だった。
自分も愛することができるようになりたい、という憧れだった。自分にはそれが出来なかったのだということに気がついたのだった。」
「「とうとう最後の望みを見つけたのね。」おばさまはいった。「愛すること、それがあなたの真の意志なのよ。」」
〇この気持ち、多分このアイゥオーラおばさまに十二分にかわいがられて、やっと自分の中から湧き上がってきた、というものなのでしょう。
「(略)それはね、いつかずっと先に、人間たちがファンタージエンに愛を持ってきてくれる時がくる、という予言なの。そして、その時には、二つの世界は一つになるだろう、というの。でも、それがどういうことだか、わたしにはわからない。」
「「心配しなくてもいいの!」おばさまはいった。「明日の朝も、わたしのことはかまわないでいいのよ。あなたはあなたの道を進んでいらっしゃい!何もかもそれでいいのだし、それで正しいのよ。おやすみなさい、わたしのかわいいぼうや。」
〇 あと少しで決着がつくのですが、長くなったので、ここで一旦終わります。