読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

シーラという子 _虐待されたある少女の物語_

「私はかわいそうなギレアモーをテーブルの下から引っ張り出して、抱きしめた。目の見えないギレアモーにとって、この騒ぎがどんなに恐ろしかったことか…。アントンはまだスザンナ・ジョイをなだめようとしていた。

一応の平静をとりもどしたようになると、タイラーとセーラは自分たちから話し合いのコーナーに行って座り、お互いを慰め合った。だが、ウィリアムはその場に釘付けになったまま、がたがた震えて泣きじゃくっていた。」


「コリンズ校長には一体何が起こったのかを尋ねないだけの分別があった。校長は何を考えているのか分らない顔のまま、ただ私が頼んだことだけをやってくれた。」



「自分の持ち場を守りながら、ウィットニーの頬にはとめどなく涙が流れていた。そんな彼女の姿を見て、私は胸が痛んだ。これは十四歳の子供には重すぎる任務だった。彼女にこんなことを任せるべきではなかったのだ。」


〇ウィットニーは、中学生で補助員のような立場にいると書かれていたと思います。
何をやっても失敗ばかりの人で、補助員というよりも、ここの子供の一人のようだ、とも書かれていました。

ウィットニーも何か事情があるのかもしれません。

「どうしていいのかわからなかった。(略)

もし私が彼女をここに閉じ込めたら、これもまた彼女をますます理不尽な行動に追い立てることになるだろう。とにかくこの子をリラックスさせ、自制心を回復させなければならなかった。

このままの状態では危険すぎる。こんなに小柄で幼い子供ではあるが、この状態に置いておけば彼女が、私に対してでなければ、彼女自身に対して非常に危険なことをしかねないことが、私には経験上わかっていた。」


「そして、半分になった体育間で二人だけになると、私はできるだけ彼女に近づき、床に腰を下ろした。

私たちはお互い見つめ合った。彼女の眼は狂ったような恐怖にぎらぎら光っていた。体が震えているのがわかった。

「あなたを傷つけるようなことはしないわ、シーラ。痛い目になんか合わせないから。あなたが怖くなくなるまで、ここで待っているだけよ。それから一緒に教室に戻りましょう。私は怒っているのではないのよ。ここで待っているだけよ。それから一緒に教室に戻りましょう。私は怒っているのではないのよ。あなたを傷つけたりもしないから」

何分かが過ぎた。私は座ったままでさっと腰を前に動かした。彼女は私をじっと見つめている。彼女の身体全体におののきが走り、やせた肩が震えるのが見えた。それでも彼女は動かなかった。

私は彼女のことを怒っていた。すごく怒っていた。私たちがかわいがっていた金魚が、目をえぐられて床でのたうち回っているのを見て激怒した。動物に残酷な仕打ちをすることには我慢ならなかった。

だが、いまでは怒りは薄れ、彼女を見ているうちに憐れでたまらなくなってきていた。この子はすごく勇敢だった。怖がり、疲れ果て、不快な状態にあるのに、それでも降参しない。彼女を取り巻く世界は非常に信頼のおけない世界だった。

その世界に彼女は唯一自分が知っている方法で立ち向かっているのだ。」


〇昔、野良猫を拾って、六畳間で一緒に眠って家猫になってもらおうと頑張った時のことを思い出しました。野良猫は一晩中、何日も何日も鳴きながら歩き回って、それでもちゃんと餌を食べ、眠り、隙を見て逃げようとし、生き延びようと頑張っていました。

その猫を見ながら、尊敬の気持ちが湧き上がったことを思い出しました。
たった一人で、小さな身体で、世界と戦っている、と感じました。
勇敢だと思いました。私に真似できるだろうか、と。

「自分よりずっと大きく、力も強く、権力も持っている私たち全員に、ひるむことなく、言葉を発することもなく涙も見せずに立ち向かうとは、なんと勇気のある子供だろう。」


「三メートルの距離をはさんで永遠とも思える時が流れた。私たちは待った。彼女の目から凶暴さが薄れ、疲労がそれにとってかわった。私はいま何時だろうかと思ったが、時計を見るために腕を動かすことを恐れた。そのまま私たちは待った。


彼女のオーバーオールの前の色が濃くなり、足元におしっこの水溜りができた。彼女は初めて私から目を離して、足元をみつめた。そして下唇を噛んだ。再び私の方を見た彼女の目には、いま起こったことに対する恐れがありありと浮かんでいた。


「しかたないわ。トイレにいく機会がなかったんですもの。あなたが悪いんじゃないわ」と私はいった。教室であれだけの大騒ぎをやらかしたあとだというのに、彼女が後悔しているのはこの失禁のほうだということが、私には驚きだった。」