読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

シーラという子 _虐待されたある少女の物語_

「毎日一日の最後には、帰りの会というのをすることにしていた。これは朝の話題と同じように、私たちを結び付け、お別れの時間に備えるということを目的にして作られていた。
 
 
その活動の一つに「コ―ボルトの箱」というのがあった。」
 
 
 
「コーボルトは勉強中の私たちのことをずっと見ていて、この教室のみんながどんなに親切で思いやりがあるかを知ってすごく喜んでいるはずだ。
 
だから親切なことをしたのをコーボルトが見るたびに、この箱にお手紙を入れておいてもらおう、と。それで毎日の帰りの会の時に、私は「コーボルトの箱」から手紙を読むことにした。
 
私が話をしてから数日たって、コーボルトは書痙にかかり、助けが必要になった。(略)
 
このようにして、私たちの中でいちばん人気のある、かつ効果的な日課が出来上がった。」
 
 
 
「そんなわけで、水曜日の料理のあとの帰りの会は、ことのほか楽しいものになった。私のではない誰かの手書きのメモに、初めてシーラの名前が出たからだ。
 
子どもたちが彼女の名前を聞いて拍手したとき、私たちから離れて座っていたシーラはずっと頭を垂れたままだった。だが、私がメモを手渡ししたとき、彼女はそれを待っていたといわんばかりに受け取った。」
 
 
「シーラは頭をかき、考えにふけるように私を見た。「あんたも頭、おかしいの?」
私は笑ってしまった。「そうじゃないといいけど」
「なんでこんなことしてるの?」
「何のこと?ここで働いていること?それは私が子供たちが大好きで、教えることが楽しいからよ」
 
「なんで頭のおかしい子と一緒にいるの?」
「好きだからよ。頭がおかしいのは悪いことじゃないわ。ちょっと人とちがうっていうだけ。それだけのことよ。」
 
 
シーラはにこりともせずに頭を振り、立ち上がった。「あんたもやっぱり頭がおかしいんだね」」
 
 
「前日の算数のブロックの一件があってから、私はこの子の知能レベルを知りたくてたまらなくなった。シーラが示しているような重度の情緒障害がある場合、学習面でも遅れているのがふつうだった。(略)
 
 
私はすでに彼女が自分の教室にいることを悦びはじめていて、なんとか州の精神病院に入れずにすまされないか、と考え始めていた。」
 
 
「シーラの小さな声、落ち着きをなくしている様子、色あせたシャツの下でがっくり落した小さな肩_すべてが一緒になって私の胸ははりさけそうだった。
 
 
ここにいる子どもたちの中でも最悪と言われているこの子の中にもこんな純真なところがあるのだ。みなただの小さな子供なのだ。」
 
 
 
「彼女の年齢だと得点表は九九が最高だったのだが、これはIQ170に相当する。シーラの得点は一〇二だった。私はテスト用紙を凝視した。」
 
 
 
「シーラのことで次に取り組まなければならない大きな問題は、衛生問題だった。(略)
 
初日この格好でやって来て、おもらしをしてから一度も洗ってないのは明らかだった
 
 
「シーラはビニールの包みごしにクリップをそっと指でなぞった。顔をしかめたまま、彼女は私を見た。「なんでこんなことする?」
「こんなことって何のこと?」
「あたしにやさしくする?」
 
私は信じられない思いで彼女の顔を見た。
「あなたが好きだからよ」
「なんで?あたしは頭のいかれた子だよ。あんたの金魚もめちゃくちゃにする。なんであたしにやさしくする?」
 
私は困惑しながらも微笑んだ。「ただそうしたかったからよ、シーラ。それだけ。あなたが髪になにかすてきなものを欲しがってるんじゃないかなと思っただけよ」
 
 
シーラは指先でプラスチックの形をなぞるように、ビニールごしにクリップを撫で続けた。「いままで誰からも何ももらったことなかった。あたしにやさしくしてくれた人なんか誰もいない」」
 
 
 
「「シーラ、家で身体を洗うことはあるの?」私はきいた。彼女は首を横に振った。「風呂がないの」
「流しは使えないの?」
「流しもないの。おとうちゃんがガソリン・スタンドからバケツで水を運んでくるんだ」彼女は言葉を切って、じっと床をみつめた。
 
 
「だけどそれは飲むためだけの水。もしあたしがその水をよごしたりしたら、おとうちゃん、ものすごく怒る」」
 
 
「アントンが後ろ手にドアを閉めようとしたとき、シーラが立ち止まり、アントンの腕の下からのぞくように私の方を見た。かすかに笑みを浮かべている。「さよなら、先生」」