読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

シーラという子 _虐待されたある少女の物語_


「止めようと思う間もなく涙があふれてきて、私の頬を滑り落ちた。なんでベビーベッドになんか寝かされているの、ということしか考えられなかった。シーラは小さな子のわりにはとても自尊心の強い子だ。こんなところに寝かされて屈辱を感じているに違いない。」


「私は彼女の髪を撫で上げ、かがみこんで彼女に近づいた。「あなたがそうしてほしがるのはよくわかるわ。私もそうしたいの。でもできないのよ」

シーラは長い間私をみつめていたが、やがて目にあの自己抑制の膜がかかった。一度長く、すすあげるように息を吸い込むと、それっきり何もいわなくなった。再び彼女は受け身の状態になり、感じるに耐えないものをまたひとつ封じ込めた。」



「シーラは四月いっぱい病院にいた。その間に彼女の叔父は法廷に召喚され、性的虐待の容疑で裁判を受けた。叔父は再び刑務所にもどった。


彼女の父親は病院恐怖症だということで、シーラの入院中一度も娘を病院に見舞うことはなかった。そしてその代わりに自分の恐怖心をジョーズ・バー・アンド・グリルで紛らわしていた。」


「ある意味では入院したことはシーラにとっていいことだった。見た目がかわいいところにもってきて、あのような恐ろしい経験をしなければならなかった彼女は、看護婦たちにとてもかわいがられた。

看護婦たちはシーラに何かと心遣いをしてくれ、彼女のほうでもそれに明るく応えていた。シーラはほとんどの場合陽気で協力的で、もちろん決して泣かなかった。


中でも一番良かったことは、一日三回バランスのとれた食事をとれることで、おかげで足りなかった体重が増え始めた。」



「シーラのあのおかしなぜったいに泣かない能力のように、彼女がこの悲劇も昇華させてしまって、まるでそんなことは起こらなかったというふうにしてしまっているのではないかと私は危惧していた。

私にとってはそれこそが、他の何よりも彼女の情緒障害の深刻さを示すものだったからだ。」


「この間に、私の担任しているクラスが永久に解散されることが確実になった。これにはいろいろな理由があり、そのひとつひとつについて私もよいくわかっていた。」



「じつをいえば、私には私の計画があった。学区のほうでは私に別の仕事を申し出てくれていたのだが、私は大学院への入学の申し込みをしていてそれが許可されていた。」



「ということは、六月に学校が終わったら、私はチャドからもシーラからも、そして私の人生で最良の何年かを与えてくれたこの場所からも離れて大陸を半ば横断していくということを意味した。」


「シーラは五月の初旬に学校にもどってきた。病院にいたときと同じように外交的で活気あふれたシーラは、まるで長い休暇をすごしてきたような印象を与えた。」



「彼女は私が思っている以上にひどい情緒障害に陥っているのではないかと私は心配になってきた。うまり、ひょっとしたら彼女は現実の世界の恐ろしさから自分を守るために、何らかの空想の世界に逃げ込んでしまっているのではないのか。」


〇 私の中の妄想ですが…
「基準がはっきりしないルール」「不安定な状況」(母性社会日本の病理で、河合氏が言っていたこと)の中で私たちはあるいみ、みんなが情緒障害に陥っているのでは?

つまり、みんなですぐに「空想の世界」に逃げ込んでしまう。それが、あの山本氏のいう、「空中楼閣」なのではないか、と。


「だが、もっとも重要な変化は、シーラがゆっくりとまた私に話しかけてくるようになったことだった。いままでこの点が欠けていたのだ。シーラは学校の生活時間でもかごでも絶えずおしゃべりはしていたが、ほんとうの話は何もしていなかった。

その場その場での他愛のないおしゃべりはしていたが、ほんとうの話は何もしていなかった。(略)

いまでは無難なことしか話さなかった。」


〇「絶えずおしゃべりするけれど、ほんとうの話は何もしない。無難なことしか話さない。」というのは、私を含め、私の周りの人ほとんどがそうではないかと思うのですが。



「「それに、あの服は血だらけになっちゃったし。あたしがいない間に、おとうちゃんがもうあの服は捨ててしまってた」

長く重苦しい沈黙が二人の間に流れた。なんといっていいのかわからなかったので、私はただ紙を切る作業を続けていた。シーラが顔を上げた。「トリイ?」
「なあに?」
「トリイとチャドも一緒にあんなことやるの?ジェリーおじちゃんがあたしにやったみたいなことを?」