読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

シーラという子 _虐待されたある少女の物語_

「私は彼女の前に座ると、クッションを背中にあてがってもたれかかった。初めてのことだったが、彼女の傷を癒すために抱きしめたい、という気にはならなかった。

私がそうできないような威厳が、マントのように彼女を包み込んでいたのだ。そのとき、私たちは年上の者と子供というのではなく対等だった。もはや私のほうが知恵があり、賢く、強いということはなかった。人間としてまったく対等だった。」


「「あなたをいい子にするのは私じゃないからよ。それはあなたがすることなの。私は、あなたがいい子でもそうじゃなくても、あなたのことを思っている人間がいるっていうことを知らせるためにいるだけなのよ。


あなたがどうなるかを心配してる誰かがいるっていうことをね。だから、私がどこにいるかは関係ないの。これからもずっとあなたのことを思ってるわ。」


「あんたもおかあちゃんと同じじゃない」シーラがいった。その声はやさしくて非難がましいところはまったくなかった。まるですでにものごとの成り立ちや理由をわかってしまったといわんばかりだった。


「ちがうわ。そうじゃないのよ、シーラ」私は彼女をじっとみつめた。「それとも、やっぱりそうなのかもしれない。多分あなたと別れるのは、あなたのお母さんが辛かったように、とっても辛いことでしょうね。お母さんもそれほど辛い想いをしたのかもしれないわ」


「「すべてのことには終わりがあるのよ」
「そうじゃないものもあるよ。悪いことなんかはそうだよ。悪いことは絶対に終わらないもの」

「いいえ、終わるわ。そのままに放っておけば、どこかへいってしまわよ。こちらが思っているほど早くにはいってくれないこともあるかもしれないけど、でも悪いことにも終わりはあるわ。


終わらないものは、私たちがお互いに持っている気持ちよ。あなたが大人になっても、どこか他の場所にいたとしても、私たちが一緒にどんなにすばらしい時を過ごしたかは思い出すことが出来るでしょ。

たとえ悪いことが起こったとしても、そしてそれが変わらないように思えたとしても、私のことは思い出せるわ。私もあなたのことをずっと覚えている」


思いがけずシーラは微笑んだ。小さな、悲しそうな笑みではあったけれど。「それはあたしたちが飼いならしあったからだね。あの本のこと、覚えてる?キツネを飼いならずために、いろいろ面倒なことがあったから、あの王子さまが腹を立てたこと、それから王子さまがいかなくちゃいけなくなって、キツネが泣いたこと、覚えてる?」


シーラは思い出に浸って微笑んでいた。自分の世界に入り込み、私がいることにほとんど気づいていないようだった。いつのまにか彼女の頬の上で涙は乾いていた。


「それでキツネはいうんだよね。いつでも麦畑を見て思い出せるから、よかったって。あそこ、覚えてる?」
私はうなずいた。
「あたちたち、お互い飼いならしたんでしょ?」
「そうよ」


「誰かを飼いならしたら泣いちゃうんだよね?あの本の中で、二人ともずっと泣いてたけど、あたしにはなんでなのかよくわからなかった。泣くのは誰かにぶたれたときだけだとずっと思っていたから」


再び私はうなずいた。「誰かに自分のことを飼いならさせたら、泣くかもしれないということを覚悟しなくちゃならないの。これも、飼いならされるということの一部なんだと思うわ」

シーラはぎゅっと唇をかみしめ、最後の涙の跡を拭いた。「それでも、すごくつらいよ。そうでしょ?」
「ええ、それでもすごく辛いわ」」