「「うちの学校ってださいんだ。ほんとのこというと、あんまり友達になりたいって子がいないんだよ」
「じゃあ、何をしてるの?」
「だから、いったように、そのときによるよ。いつもは家事をやってる。お父さんがやらないのはきまってるからね。お父さんにまかせておいたら、豚小屋に住むことになっちゃうよ。それから買い物もあるし。料理も。一体だれが料理してると思ってるの?」
私は頷いた。(略)
「お父さんからうまく巻き上げなくちゃならないんだ」シーラはふた口でハンバーガーを食べ終わった。「もうずいぶん前にそういうことを覚えたんだ。すばやくお父さんからお金を巻き上げないと、すぐに無くなってしまうんだから」(略)
「お父さんはもうお酒やドラッグとは縁が切れたと思っていたわ。そういうことは全て過去のことになったと思っていたのに」
シーラはばかにするように鼻を鳴らした。「まさか」
「じゃあまだ飲んでるの?」私はめまいを覚えながらきいた。「あの野球チームが…」
「人はそんなに変わらないよ。そんなことも知らなかったの?環境は変わっても、人は決して変わらない。」」
「タクシーでやってきたとき、アレホはまた出たくないという素振りを見せたが、シーラが中に乗り込み彼と一緒にしばらくいて、ついに彼女と一緒に出てくるようにうまく説得した。
この三週間で初めて、アレホは教室まで引っ張って連れて来られるのではなく、シーラに手をひかれて、自分で歩いてやってきた。
「あたし、この子と一緒にいて自分なりの方法でやってもいい?」シーラがきいた。
「あなたがそうしたいのならいいわよ。何か考えがあるの?」と私は答えた。」
「「あの子たちにこのまま続けさせていいものかな?」
予期せぬ声にびっくりして振り返るとジェフだった。(略)
「思わず立ち聞きしてしまったんだけどね。なかなか面白い会話だったよ。あの子たちはレゴで牢屋を作っていて、レゴの小さい人間をその中に入れてるみたいなんだよ。
あの口ぶりからすると、アレホは母親を牢屋に入れていたんだな。こういってたんだよ。”お母さんは、だめ、だめ!もう一度こんなことをしたら、部屋に閉じ込めてしまいますからねって、いうんだ。二日間あなたとは口をきかないから。そんなことをするなんて、あなたは悪い子だからテレビを見ちゃいけませんって”
で、シーラがいったんだ。”お母さんを牢屋に入れちゃおうよ。ここは悪いお母さんの入る牢屋。お母さんをここに入れて、罰を与えてやろうよ。血を流してやるんだ。爆弾を投げて殺すっていうのもいいね”レゴを落しながら、二人はこういうことをやっていたわけだ」
ジェフはあたりを見回した。「これじゃあどっちがどっちを指導しているのかわからなよ」
「ほんとね」
「二人がやりたいんなら、このままやらせた方がいいと思うんだけど」とジェフがいった。「あれほどアレフが喋ったのを聞いたのは初めてだし…だけど何をしゃべっているのかは気をつけて聞いているようにしたいんだ」
私は会話の内容を聞かされて穏やかではなかった。いくらわたしがシーラにここで積極的な経験をさせてやりたいと思っているといっても、彼女は訓練も積んでいないティーンエイジャーでセラピストではないのだ。
それどころか彼女自身まだ自分の精神的な重荷をいっぱい背負っていた。」
「わたしと二人っきりになりたいというのが、シーラが何か話したがっているということならいいのだが、と私は思っていた。先ほどジェフからきいた彼女とアレホの間の会話のことで、わたし自身まだ多少動揺していたので、シーラがそのことを話し合いたいと思っているのかもしれない、そうでなくても少なくともアレホのことで話があるのかもしれない、と私は期待していた。だがどうやらそうではなかったようだ。」
「「ずっと思ってたんだ。あたしもトリイたち教える側の一人じゃなくって、子どもたちの一人だったらいいのになって。だって、あの子たちがやってることって、すごく面白そうなんだもん。まるで夢の学校みたいだよ」
私もにやっと笑い返した。
「これで絵を描いてもいい?」ためらいがちにそうききながら、シーラは色チョークの箱を掲げて見せた。(略)
シーラは教室の黒板一杯を使う巨大な絵の創作に没頭し出した。私はその集中力にびっくりしてしまった。まるで自分の気持ちをすべて吐き出してしまおうとでもするように一心不乱に描いていた。」
「「あたしのことでトリイが知らないことはいっぱいあるよ」」
「シーラはにやっと笑った。「あたし、トリイをびっくりさせるようなことするのが好きなんだ」」
「「トリイはあたしを操りたくてたまらないんでしょ。ほんとうはこの人物はあたしで、この砂漠はあたしの人生だって言わせたくてたまらないんでしょ?」
「もしほんとうにそうならね」
「え?ほんとうだよ。トリイだって知ってるくせに」」