読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

タイガーと呼ばれた子_愛に餓えたある少女の物語

「チャドの家は新築の美しい豪邸だった。三台分のガレージと脇にはテニスコートもあった。正直に告白すると、それを見た時、これが私のものになったかも知れないのだと、一瞬胸が後悔で疼いた。いや、あれは嫉妬だったのかもしれない。」



「リサはかわいらしくたいへん小柄で、まるでおとぎ話の主人公のようだった。
「そして、これが」とチャドはいいながら、小さな女の子を自分の前にひっぱってきた。
「これがうちのシーラだ」」



「「「トリイはね、あたしの人生は自分のものだと思っているんだ。自分があたしを創り出したと思ってるんだよ。あたしのことを自分の本の登場人物にすぎないと」
「そんなこと思ってないわよ!」私は言い返した。
「そうじゃないの。あたしは今夜あんなところに行きたいなんていわなかった。トリイが勝手に計画して、あたしの意見なんか聞きもしなかったじゃない。


なんであたしがあんなところに行きたいと思わなきゃならないのよ。あたしはあの人たちをそもそも知りもしないんだよ」
「知ってるじゃないの。何をいってるの、チャドじゃないの」(略)


シーラは剣を振るように激しく腕を振り下ろして私の言葉をさえぎった。「だからって、あたしがものすごく感謝しなければならないってわけ?」彼女は声を荒げた。


「トリイはそうして欲しいんでしょ。あたしは、あたしのためにいろいろやってくれたみんなにどれだけ感謝してもし足りないってくらいに感謝すべきだって。そうなんでしょ?それがトリイの望んでいることなんでしょ?」
「ちがうわ」
「そうだよ。ごまかさないでよ、トリイ。あんたが望んでることはそういうことなんだよ。自分をいい人だと思いたいんじゃない。あんたがもどってきた理由はそれしかないよ」


「ちがうわよ!」私は叫んでいた。
シーラの顔を見ていて、私は怪獣(モンスター)を開放してしまったことに気づいた。


彼女の顔色がピンクから赤、そして深紅色へと変わり、こめかみに青筋が立ってきた。目がぎらぎらと光り、歯がむきだされている。私の頭のはるか奥の方で、わたし自身の身の危険を知らせる警報ベルが鳴っていた。


「あんたは自分があたしの人生をよくしたと思ってるんでしょ?」シーラは叫んだ。一言しゃべるごとに声が大きくなっていった。「自分が物事をうまく直したと思ってるんでしょ?ちがうんだよ。あんたのおかげで余計悪くなったんだよ。それまでより、うんとうんと、何百万倍も悪くなったんだよ!」


「ちょっと、ちょっと、やめなさいよ」
「うるさい!」シーラは大声で叫んだ。「あんたのほうこそやめてよ!あたしへのおせっかいをやめられないのは、あんたのほうじゃないの。あたしの人生に手を出さないでよ!」


私はシーラをまじまじと見た。
「あんたはあたしをはめたんだよ、トリイ。あんたはあたしをあの教室に連れてきて、おもちゃで遊ばせて、たくさん本を読ませて、あたしに何百万ドルの値打ちがあるような気分にさせた。


で、それから何をした?トリイはずっといてくれた?一度あたしを手に入れたら、そのあとずっと面倒を見てくれた?」シーラが口を大きく開けたので、私は彼女が泣きだすのではないかと思った。それから彼女はすすり上げるように長い息を吸い込んだ。


「あんたは自分が行ってしまうのを知っていながら、あたしをはめたんだ」
「わたしはそんなつもりじゃあ__」わたしはいいかけた。


「そうじゃないの!あんたがあたしにやったことは、すべて最初からそのつもりだったんだよ、トリイ。あたしはあのときまで、自分の生活がどんなにひどいものだったかってことを知らなかったんだよ。そこにあんたがやってきて、突然まったく違う世界があるってことを教えたんだよ。


それもあんたはそのつもりでやったんだ。すべてを仕切ったんだよ。あんたは糞からあたしを作り上げて、それでいてあたしにお花のようにいい匂いがするって思いこませたんだ」
「シーラ、きいて_」
「あんたはあたしのことを愛してくれている。そうあたしは信じ込まされてた」
「わたしはあなたのことを愛していたわよ、シーラ。今でもそうよ」


「けっ、やめてよ。よくそんなことがいえるね。あたしを置いて行ってしまったくせに」
「シーラ_」
「あんたはすごい力を持っていたよ、トリイ。あたしはものすごくあんたのことを愛していた。ものすごくね。それなのにあんたは何をしてくれた?あたしをドアから押し出して、あたしを置いて行ってしまったんだよ」



「シーラ、お願いだから」
「もう二度とあんなことはごめんだからね!」シーラは叫んだ。そして私が何が起こったかもわからないうちに、モーテルの部屋のドアを開けて出て行ってしまった。」

〇シーラの気持ちが分かり過ぎるほど分かります。
自分がいい人だって思いたいだけの為に、人をその「材料」にするな!と言いたい気持ち。

ペットなら、何も言わず、嬉しそうに尻尾を振って懐いて、こんな文句は言わない。でも、人間は、ペットとは違う…。


でも、だったら、何もしなければよかったのか…。

シーラのこの気持ちは、読んでる私の中にもありました。
私は心がねじ曲がっている人なので、私も同じように感じていました。

結局、このトリイ・ヘイデンという人は、この本を出版するために、シーラを探し出したのでは?と。
「愛してる」とか言ったって、もしその必要がなければ、探すことさえしなかったのでは?と。

トリイさんが何度も言っていた、深入りするな、というのはそういうことなのだろうか、と思いました。
そういえば、以前介護ヘルパーの仕事をやったことがあるのですが、あの仕事も、
仕事以外での個人的接触を極力禁止していました。

あの仕事も突き詰めていけば、愛情が必要とされる場面が出てきます。
心の部分での支えが必要な人がいるのだと思います。

でも、それが出来ると思い込んで、利用者を依存させると、結局はその依存に応えられずに、最後は突き放すことになるので、最初からほどほどの関りにする、ということなのでしょう。


ただ、斎藤学氏が言っていたように、このシーラのような子の場合、ほどほどの付き合いでは、何も変えられない。
トリイさんは、間違っていたのかもしれないけれど、でも、それがなければ、シーラは多分、精神病院の中にいた。

そして、シーラがトリイに、こんなにまでもはっきり自分の気持ちを言える人間になったというのは、ある意味、トリイの素晴らしさの証明のようにも見えます。