読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

サピエンス全史 上  <プジョー伝説>

「陰口を利くというのは、ひどく忌み嫌われる行為だが、大人数で協力するには実は不可欠なのだ。新世代のサピエンスは、およそ七万年前に獲得した新しい言語技能のおかげで、何時間も続けて噂話が出来るようになった。
 
誰が信頼できるかについての確かな情報があれば、小さな集団は大きな集団へと拡張でき、サピエンスは、より緊密でより精緻な種類の協力関係を築き上げられた。」
 
 
 
「噂話はたいてい、悪行を話題とする。噂好きな人というのは、元祖第四階級、すなわち、ずるをする人やたかり屋について社会に知らせ、それによって社会をそうした輩から守るジャーナリストなのだ。」
 
〇私たちの社会では、その「ジャーナリスト」の力が弱いのでしょうか。それとも、あまりにもずるをする人やたかり屋の力が強いので、沈黙するしかないのでしょうか。
 
 
「とはいえ、私たちの言語が持つ真に比類ない特徴は、人間やライオンについての情報を伝達する能力ではない。むしろそれは、まったく存在しないものについての情報を伝達する能力だ。
 
 
見たことも、触れたことも、匂いを嗅いだこともない、ありとあらゆる種類の存在について話す能力があるのは、私たちの知る限りではサピエンスだけだ。」
 
 
 
「伝説や神話、神々、宗教は、認知革命に伴って初めて現れた。それまでも、「気をつけろ!ライオンだ!」と言える動物や人類種は多くいた。だがホモ・サピエンスは認知革命のおかげで、「ライオンはわが部族の守護霊だ」という能力を獲得した。
 
虚構、すなわち架空の事物について語るこの能力こそが、サピエンスの言語の特徴として異彩を放っている。」
 
 
だが虚構のおかげで、私たちはたんに物事を想像するだけではなく、集団でそうできるようになった。聖書の天地創造の物語や、オーストラリア先住民の「夢の時代(天地創造の時代)」の神話、近代国家の国民主義の神話のような、共通の神話を私たちは紡ぎ出すことができる。そのような神話は、大勢で柔軟に協力するという空前の能力をサピエンスに与える。
 
 
アリやミツバチも大勢で一緒に働けるが、彼らのやり方は融通が利かず、近親者としかうまくいかない。オオカミやチンパンジーはアリよりもはるかに柔軟な形で力を合わせるが、少数のごく親密な個体とでなければ駄目だ。
 
ところがサピエンスは、無数の赤の他人と著しく柔軟な形で協力できる。だからこそサピエンスが世界を支配し、アリは私たちの残り物を食べ、チンパンジーは動物園や研究室に閉じ込められているのだ。」
 
 
「<プジョー伝説>(略)
 
アルファオスはたいてい、競争相手よりも身体的に強いからではなく、大きくて安定した連合を率いているから、その地位を勝ち取れる。」
 
 
 
「自然状況下では、典型的なチンパンジーの群れは、およそ二〇~五〇頭から成る。群れの個体数が増えるにつれ、社会秩序が不安定になり、いずれ不和が生じて、一部の個体が新しい群れを形成する。
 
 
100頭を超える集団を動物学者が観察した例は、ほんの一握りしかない。(略)
一つの集団が、近隣の群れの成員のほとんどを計画的に殺害する「大量虐殺」活動さえ、一件記録されている。」
 
 
「認知革命の結果、ホモ・サピエンスは噂話の助けを得て、より大きくて安定した集団を形成した。だが、噂話にも自ずと限界がある。社会学の研究からは、噂話によってまとまっている集団の「自然な」大きさの上限がおよそ150人であることがわかっている。
 
ほとんどの人は、150人を超える人を親密に知ることも、それらの人について効果的に噂話をすることも出来ないのだ。」
 
 
「近代国家にせよ、中世の教会組織にせよ、古代の都市にせよ、太古の部族にせよ、人間の大規模な協力体制は何であれ、人々の集合的想像の中にのみ存在する共通の神話に根差している。
 
 
教会組織は共通の宗教的神話に根差している。たとえばカトリック教徒が、互いに面識がなくてもいっしょに信仰復興運動に乗り出したり、共同で出資して病院を建設したりできるのは、神の独り子が肉体を持った人間として生まれ、私たちの罪を贖うために、あえて十字架に架けられたと、みな信じているからだ。(略)
 
 
司法制度は共通の法律神話に根差している。互いに面識がなくても弁護士同士が力を合わせて、赤の他人の弁護をできるのは、法と正義と人権_そして弁護料として支払われるお金_の存在を信じているからだ。
 
 
とはいえこれらのうち、人々が創作して語り合う物語の外に存在しているものは一つとしてない。宇宙に神は一人もおらず、人類の共通の想像の中以外には、国民も、お金も、人権も、法律も、正義も存在しない。」
 
 
〇神も国民もお金も人権も法律も正義も全て人間の創り出した「物語」だ、と言い切っている。敢えて、言い切っているところに、著者の強い主張が感じられる。
 
 
「「原始的な人々」は死者の霊や精霊の存在を信じ、満月の晩には毎度集まって焚火の周りでいっしょに踊り、それによって社会秩序を強固にしていることを私たちは簡単に理解できる。
 
 
だが、現代の制度がそれとまったく同じ基盤に依って機能していることを、私たちは十分理解できていない。
 
 
企業の世界を例に取ろう。現代のビジネスマンや法律家は、じつは強力な魔術師なのだ。彼らと部族社会の呪術師(シャーマン)との最大の違いは、現代の法律家の方が、はるかに奇妙奇天烈な物語を語る点にある。その格好の例がプジョーの伝説だろう。」