読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

サピエンス全史  上<金の福音>

「ローマの硬貨に対する信頼は非常に厚かったので、帝国の国境の外でさえ、人々は喜んでデナリウスで支払いを受け取った。一世紀のインドでは、一番近くにいるローマの軍団でさえ何千キロメートルも離れていたにもかかわらず、市場での交換媒体としてローマの硬貨が受け容れられていた。(略)


「デナリウス」という名前は硬貨の総称となった。イスラム教国家のカリフ(支配者)たちは、この名称をアラビア語化し、「ディナール」を発行した。ディナールは今なお、ヨルダン、イラクセルビアマケドニアチュニジア他数カ国の通貨の名称だ。」



「国や文化の境を超えた単一の貨幣圏が出現したことで、アフロ・ユーラシア大陸と、最終的には全世界が単一の経済・政治圏となる基礎が固まった。人々は互いに理解不能の言語を話し、異なる規則に従い、別個の神を崇拝し続けたが、誰もが金と銀、金貨と銀貨を信頼した。


この共有信念抜きでは、グローバルな交易ネットワークの実現は事実上不可能だっただろう。」



「だが、非常に異なる文化に属し、たいていのことでは同意できなかった中国人やインド人、イスラム教徒、スペイン人が、金への信頼は共有していたのは、どうしてなのか? なぜ、スペイン人は金を信頼し、イスラム教とは大麦を、インド人はタカラガイの貝殻を、中国人は絹を信頼するということにならなかったのか?


経済学者たちはおあつらえ向きの答えを持っている。交易によって二つの地域が結びつくと、需要と供給の力のせいで、輸送可能な品物の値段が等しくなる傾向がある。その理由を理解するには、次のような仮想の状況を考えるといい。


インドと地中海沿岸との間で本格的な交易が始まったとき、インド人は金に関心がなかったので、インドでは金にはほとんど価値がなかったとしよう。

だが、地中海沿岸では金は地位の象徴として垂涎の的で、非常に高い価値を持っていた。次に何が起こるだろうか?

インドと地中海沿岸とを行き来する貿易商人は、金の価値の違いに気づく。彼らは利益を得るために、インドで金を安く買い、地中海沿岸で高く売る。その結果、インドでは金の需要と価値が急速に高まる。

一方、地中海沿岸には金が大量に流入するので、その価値が下がる。いくらもしないうちに、インドと地中海沿岸での金の価値はほとんど同じになる。


地中海沿岸の人々が金を信頼していたというだけで、インド人も金を信頼し始める。たとえインド人には依然として金の使い道が全くなかったとしても、地中海沿岸の人々が欲しがっているのであれば、インド人も金を重んじるようになるのだ。」



「貨幣は人間が生み出した信頼制度のうちほぼどんな文化の間の溝をも埋め、宗教や別、人種、年齢、性的指向に基づいて差別することのない唯一のものだ。貨幣のおかげで、見ず知らずで信頼し合っていない人どうしでも、効果的に協力できる。」