読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

サピエンス全史  上<悪の帝国?>

「今の時代、政治的な罵り言葉のうち、「ファシスト」を除けば、最悪なのは「帝国主義者」だろう。帝国に対する現代の批判は、普通二つの形を取る。

1 帝国は機能しない。長期的に見れば、征服した多数の民族を効果的に支配するのは不可能だ。

2 たとえ支配出来たとしても、そうするべきではない。なぜなら、帝国は破壊と搾取の邪悪な原動力だからだ。どの民族も自決権を持っており、けっして他の民族の支配下に置かれるべきではない。



歴史的な視点に立つと、最初の批判はまったくのナンセンスで、二番目の批判は大きな問題を抱えている。


じつのところ帝国は過去2500年間、世界で最も一般的な政治組織だった。この2500年間、人類のほとんどは帝国で暮らしてきた。帝国は非常に安定した統治形態でもある。(略)


一般に帝国は外部からの侵略や、エリート支配層の内部分裂によってのみ倒された。逆に、征服された民族は、帝国の支配からはめったに逃れられなかった。ほとんどが何百年も隷属状態にとどまった。たいていは、征服者である帝国にゆっくりと消化さえ、やがて固有の文化は消え去った。

例えば、476年に西ローマ帝国が、侵入してきたゲルマン人の諸部族についに倒された時、何世紀も前にローマ人が征服したヌマンティア人やアルウェルニ族、ヘルヴェティア人、サムニウム人、ルシタニア人、ウンブリア人、エトルリア人、その他何百もの忘れられた民族は、骨抜きにされた帝国の亡骸から復活したりしなかった(大魚の呑み込まれたヨナが腹から出て来たという、旧約聖書の話のようにはいかなかったのだ)。彼らはまったく残っていなかった。(略)


多くの場合、一つの帝国が崩壊しても、支配下にあった民族は独立できなかった。(略)それがどこよりも明白だったのが中東だ。この地域における現在の政治的布陣(おおむね安定した境界を持つ、多くの独立した政治的実体の間での力の均衡)は、過去数千年間のどの時期にも、ほとんど類を見ないものとなっている。


前回中東がこのような状況にあったのは、紀元前八世紀半ばに大英帝国フランス帝国が崩壊するまで、リレー競争のバトンのように、中東は一つの帝国の手から別の帝国の手へと次々に引き継がれていった。」


「今日のユダヤ人やアルメニア人、ジョージア人が、古代中東の民族の子孫だと主張しており、それはある程度まで妥当なのは確かだ。だが、これはむしろ、帝国に征服された民族は吸収されてしまうという原則の正しさを示す例外にすぎず、彼らの主張さえもが多少誇張されている。



たとえば、現代のユダヤ人の政治的、経済的、社会的慣行が、ユダヤの古代王国の伝統よりも、過去2000年間に支配を受けた諸帝国に負うところの方が大幅に多いことは、言うまでもない。(略)


古代ユダヤにはシナゴークもタルムードも、モーセ五書の巻物さえもなかったのだから。」


「帝国を建設して維持するにはたいてい、大量の人を残忍に殺戮し、残り全員を情け容赦なく迫害する必要があった。帝国の標準的な手駒には、戦争、奴隷化、国外追放、組織的大量虐殺などがあった。」


「だがこれは、帝国が価値あるものを何一つ後に残さないということではない。すべての帝国を黒一色に、塗り潰し帝国の遺産の一切を拒否するのは、人類の文化の大半を退けるのに等しい。


帝国のエリート層は征服から得た利益を軍隊や砦のために使っただけではなく、哲学や芸術、道義や慈善を目的とする行為にも回した。」


「ローマの帝国主義がもたらした利益と繁栄のおかげで、キケロセネカ、聖アウグスティヌスは思索や著述にかける暇とお金が得られた。


タージマハルは、ムガル帝国がインドの臣民を搾取して蓄積した富がなければ建設できなかっただろう。」



「今日、ほとんとの人が、私たちの祖先が剣を突きつけられて強制された帝国の言語で話、考え、夢見ている。」