読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

サピエンス全史  上 <歴史の中の善人と悪人>

「歴史を善人と悪人にすぱっと分け、帝国はすべて悪人の側に含めるというのは魅力的な発想だ。帝国の大多数は血の上に築かれ、迫害と戦争を通して権力を維持してきたのだから。

だが、今日の文化の大半は、帝国の遺産に基づいている。もし帝国は悪いと決まっているのなら、私たちはいったいどのような存在ということになるのか?


人類の文化から帝国主義を取り除こうとする思想集団や政治的運動がいくつもある。帝国主義を排せば、罪に汚されていない、無垢で純正な文明が残るというのだ。こうしたイデオロギーは、良くても幼稚で、最悪の場合には、粗野な国民主義や頑迷さを取り繕う不誠実な見せかけの役を果たす。


有史時代の幕開けに現れた無数の文化のうちには、無垢で、罪に損なわれておらず、他の社会に毒されていないものがあったと主張することはだとうかもしれない。だが、その黎明期以降、そのような主張のできる文化は一つもない。」



「たとえば、今日の独立したインド共和国とイギリスの支配との愛憎関係について考えてほしい。(略)


それでも、現代のインド人の国家は大英帝国の子どもだ。イギリス人はインド亜大陸の居住者を殺し、傷つけ、虐げたが、彼らはまた、相争う藩王国や部族などの、途方に暮れるほどの寄せ集めを統一し、インド人が共有する国民意識と、おおむね単一の政治的単位として機能する国家を生み出した。」


「以前の「純正」な文化を再建し、保護することを願って、残酷な帝国の遺産を完全に拒否することにしたとしても、それによって守っているのは、さらに古くておなじぐらい残酷な帝国の遺産以外の何物でもない可能性が非常に高い。


イギリスによる支配でインド文化が台無しにされたと憤慨する人は、ムガル帝国の遺産と征服者であるデリーのスルタンの権力を、図らずも神聖視することになる。」


「文化の継承にまつわるこの厄介な問題をどのように解決すればいいのかは、誰にもはっきりとはわからない。どの道を選ぶにしても、問題の複雑さを理解し、過去を単純に善人と悪人に分けたところでどうにもならないのを認めるのが、第一歩だろう。

もちろん、私たちはたいてい悪人に倣うと認める気があれば、話は別だが。」