読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

タイガーと呼ばれた子_愛に餓えたある少女の物語

「待っていても何にもならなかった。そこでついに私たちはあきらめて、この事件は警察に任せることにして家に帰った。家に帰っても、私は眠れなかった。(略)


私が六歳のシーラに対して行ったことはあれで十分だった、私はシーラの人生を変えたのだと考えることは余りに安易すぎていた。だが、夜の闇の中で眠れないままに過ごしていると、私は結局何も変えなかったのだと考えるのもまた安易すぎるように思えて来た。



翌日は土曜日だった。クリニックにいても出来ることは何もないので、私はクリニックには行かず、自宅で電話の傍で待機していた。アランがやってきた。(略)

アランはびっくりして、こんなことにここまで深入りする人間は見たことがないというようなことを何度か口にした。同情を示しながらも、彼は多少とまどっていた。(略)それで、アランはすぐに帰って行き、私はその日の残りをずっと一人で過ごした。」


「ジェフは私の本棚を見ていた。「君が書いたっていう本はどこにあるの?」
「まだ出版されていないのよ。来年の四月に出るの。でも原稿ならそこにあるわよ」と私は指で示した。(略)


「これは何だい、ヘイデン?」
「何が?」
「ここだよ。一章の一ページ目。”新聞の六面の漫画の下にほんの数行書かれただけの小さな記事は、近所の子供を誘拐した六歳の女の子の話を伝えていた”」ジェフは顔を上げた。「これがシーラなのか?」
私はぞっとした。(略)


ジェフは読むのを止めて、私を見た。「このことを一度も僕たちに話さなかったね」
「思いつかなかったのよ」
「思いつかなかっただって、ヘイデン?あの子はこういうことを前にやっているんだよ。それを思いつかなかっただって?」


ほんとうはそうではなかった。そのことは考えてはいた。実はずっと考えていたのだ。特にあのまんじりとも出来なかった夜の間ずっと。だが、あのことと今回のことをどのように結びつけて考えていいのかわからなかったのだ。


あの事件は実に恐ろしく思える。いや、実際に恐ろしい事件だった。だが、あの事件がシーラが今やっていることと何か関係があるだろうか?私にはそうは思えなかった。(略)


彼は片方の眉を上げた。「気をつけた方がいいぞ。きみは自分を裁判官にしたてあげ、この事件を裁こうとしている」
「じゃあ、あなたはこのことを言わなければならないと思うの?」


「ああ、少なくともドクター・ローゼンタールにはね。つまり、これはちょっとした出来事とはとても言えないようなことだからね。君は今まであの子のことを色々話してくれたけど、彼女が子供の頃こういうことをするような子だったという印象を与えるようなことを君は全然言わなかったじゃないか。この事件であの子はもう少しでその子を殺すところだったんだよ」(略)



ジェフはこの新しい事実を知って落ち着きを失った。「あの子、何をしでかすかわからないぞ」彼はそう言い続けた。だが、状況次第で私たちの誰もが”何をしでかすかわからない”のに。」



「結局ジェフが議論に勝って、私たちはドクター・ローゼンタールに電話した。ドクター・ローゼンタールは厳粛に話をきいてくれた。いえ、お願いですから警察には言わないでください。私はそう頼んだが、ドクター・ローゼンタールはやさしくジェフが言ったことと同じことを指摘した。


その結果、三十分後にはデューランテ巡査がジェフと私と一緒にわが家のキッチン・テーブルの所に座っていた。みんなが帰ったころには、私はすっかり落ち込んでしまっていた。いったいシーラはどうしてしまったのだろう?あんなに才能にも恵まれ、将来の希望もあるのに、曲がり角を曲がるたびに事態は悪い方に進んで行く。


熱い風呂につかりながら、私は問題をお湯に浸してしまおうとした。
またドアをノックする音が聞こえた。ベッドサイドの時計を見ると、十一時半近かった。(略)


シーラだった。シーラとアレホがアパートメントの薄暗い廊下に立っていた。」