読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

タイガーと呼ばれた子_愛に餓えたある少女の物語

「「うん。お父さんのところに連れてって」シーラは私の方をちらりと見た。「ここ一時間ほど、目を閉じっぱなしだったけど、ずっと眠っていたわけじゃないんだ。考えていたの。あたしたちが話したことについて、何度も何度も考えていたんだ。それで家に帰りたいんだって決めたの」
びっくりして私はうなずいた。「わかったわ」(略)



「えーと、あるときあたしがトリイに、いつかあたしにとって事態がマシになることがあると思うか、あたしの生活がまともなものになることがあると思うかってきいたこと、覚えてる?それからトリイが何て言ったか、覚えてる?」
私は思い出そうとしてためらっていた。


「あたしは覚えてる。だってそのことがすごく心に残ったから。トリイは、物事をあるがままに受け入れなければならない、って言ったんだよ。お母さんがあたしを置いて行ってしまったっていうことを受け容れなければならないって。


たまたまそういうことになってしまったけど、それはあたしが悪かったからじゃない。ただそうなってしまっただけなんだってことを受け容れなければならないって。それから、そのことを許して、それを手放してやらなければならないってトリイは言った」
私は頷いた。



「あの、あたし、その第一ポイントまで来たと思うんだ。ここにずっと座って、考えているうちに、もうあれはあたしのせいじゃないって気になって来たんだよ。そりゃあ今でもものすごく心が痛むよ。今でもあんなこと起こってほしくなかったって思う。



でも、起きてしまったことなんだから。多分お母さんは自分の問題を抱えていただけなんだろうって、今ならわかる。そこにあたしが含まれていたのは、単にあたしが運が悪かったんだって」(略)


「物事が前とは違って見えてきたように思うんだ。あたし、それを受け入れることが出来ると思う」シーラはいった。
「よかった」(略)



「あのね、あたしが一番考えていたのは、トリイがそれを手放してやるって言ったことについてなんだ。受け入れて、許して、それからそれを手放してやる。あたし、受け入れるのは出来ると思う。許すこともできると思う。でも、手放してやるってなんだろうってずっと、ずっと考えていたんだ。


”手放してやる”ってどういうことだろうってずっと考えてたんだけど、それって自分の人生を前向きに生きるってことじゃないのかなってことしか思いつかないんだけど。過去のことより未来のことを考え始めるってこと」
「そうよ、それってすごくうまく言い当ててると思うわ」」




「私にわかった範囲内では、シーラは学校とも父親とも引き続きなんとかやっているようだった。父親の方も厄介なことにならないように、自分でも努力していた。シーラからの手紙によく断酒会のことが書いてあった。シーラはアラティーンアルコール依存症の親を持つ十代の子どもを守る会)に参加し、そこでクレアと出会った。


クレアは十八歳で、シーラと同じ学校のやはり最上級生だったが、シーラのように貧困家庭の子どもではなかった。(略)



クレアとシーラはお互い他の同世代の仲間たちにはわからない所を理解し合え、友情を育ませていった。(略)



私は初めて、あるがままのシーラを見た。自分自身のアイデンティティを作って行こうとしている知的で、自分の意見をはっきりというティーンエイジャーのシーラを。」


「シーラは、クレアが第一志望だったスタンフォードに入学を許可された、と話してくれた。
「で、あなたは?」これ以上好奇心を抑えきれなくなって私はきいた。「貴方の計画はどうなってるの?」(略)



ついに、シーラは顔を上げた。「あたし、大学には行かないことにしたの。三週間前にマクドナルドで働くっていう仕事に就いたんだ。学校を卒業したら、フルタイムで働くことにした」
マクドナルドですって?」私はびっくりして言った。「ちょっと、シーラ、マクドナルドだなんて?」」



「「ねえ、お母さん、あたし、自分なりのやり方でやらなきゃいけないんだよ」
「私はあなたのお母さんじゃないわ。私の子だったらこんなことするはずがないもの」
「トリイはあたしのお母さんよ。もし誰かがお母さんだとしたら、それはトリイしかいない。だって、あたしトリイのことをお母さんみたいに愛しているもの。それに、トリイもあたしのこと愛してくれているって分ってるもの」シーラはにっこりとほほ笑んだ。



「さあ、お母さん、もうそろそろ私を大人にさせてよ。大学は後でも行けるよ。たぶんね。先のことなんかわからない。でも今はハンバーガーなの」
「まあ、シーラ。ちょっと。本気じゃないでしょう?」



「文句いわないで。いい?」シーラは言った。「昔みたいに言ってよ。”シーラ、あなたがやりたいと思う事、何をやってもいいのよ。私が必要になったら私はここにいるわ。あなたのすぐ後ろにいるから”って。あたしにそう言ってよ」



私は彼女をじっと見つめた。ピザ・レストランの薄暗い明かりの中で、ブルーグレーのシーラの瞳を私はずっと見つめていた。それから溜息をつき、にやっと笑った。「わかったわ。あなたが正しいと思う事をやりなさい。あなたを信頼しているから」
「ありがとう、お母さん」