「O もし人類の歴史の中で最も影響力の大きかった出来事を一つ挙げろと言われたら、僕は、イエスの処刑だと思うんです。たった一人の人間の死が、結果的には人類史に圧倒的な足跡を残し、いまでも大きな影響を及ぼしている。(略)
しかし、ユダだけは、どういう角度から見ても救いようがないのです。(略)
もっと邪推をすれば、最後の晩餐で「お前たちの一人が…」と言っている時、イエスは実は誰が自分を裏切るかは知らなくて、弟子たちの様子を見ながら、最も動揺していて、暗示にかかりそうな人を探し出すために、あえてそんなことを言ってみたのではないか。(略)
H 大澤さんの見方には、とても道理があると思う。
O そうですね。
弟子たちが賢明で有能すぎると、イエスは捕まらず、死刑になれない。だから、それなりにドジでないといけない。(略)
ユダの裏切りがプロットのために絶対必要なのは、大澤さんの指摘通りなんだけど、そうすると、福音書で最も大事な役割を果たし、神の計画を完成させているのは、ユダなんです。(略)
O 考えてみると、この復活劇のポイントは、誰かがイエスをきっちり裏切らなければならないということですね。だから、ユダの役割は絶対に必要です。
H だから聖書に入らなかったんだと思う。
O それを入れてしまったら、処刑・復活のストーリーが台無しになっちゃいますからね。それでもやっぱり、ぼくはいつもユダに非常に同情します。」