読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ふしぎなキリスト教  15 不可解なたとえ話 1 不正な管理人

「O 橋爪さんは福音書を読んでいて、首をかしげることはないですか?イエスの発言に関して、いくらなんでもこれはおかしいだろうと思う事が僕は時々あります。


H そういうことを、どんどん挙げてみましょう。

O じゃあ、最も不可解なものからいきますね。(略)
これから紹介するのは「不正な管理人のたとえ」と呼ばれている話ですが、きわめつきにわかりにくい。(略)


この管理人の行動は、ぼくらの常識からすると、とんでもないことです。もともと、彼は主人の財産を不正使用していた上に、今度は、主人が貸しているお金を勝手に小さくしているわけですから、二重の業務上横領ではないか。


ところが、これを知った主人が、管理人をほめるんですね。「お前は抜け目がなくて偉いぞ」というようなことを言って称賛する。いったい、この管理人のやったことのどこが立派なのか。どこが神の国にふさわしいのか。


H その話は、ルカによる福音書16章のたとですね。
借金を減額した部分は、取ることを禁じられていた利子だったので、それをなしにするのは正しい、という解釈もあるようです。でも、なんとなく不思議な感じが残る。


福音書の例えは、人々の常識を前提にしつつ、その根幹を揺さぶるように語られます。金銭の管理がしっかりしているべきで、横領や不正がいけないのは常識。でも、財産を無駄遣いしている嫌疑をかけられた管理人は、その先を考え始める。


彼がしたのは、金銭の貸借関係を友愛に変換すること。隣人の借金を「赦す」なら、自分が「赦される」のではと考えた。


それを褒めた主人は、金銭関係が支配する世の中がやがて終わると知っている。すなわち、ヤハウェです。だから、この例えは、「神と富の両方に仕えることはできない」「不正にまみれた富で友人を作りなさい」と結ばれている。


終末論にもとづく行動は、世俗の倫理道徳を超越することを述べているのです。


O うーん。それはちょっと苦しい解釈である気がしますね。自分の金を与えたのならこの管理人は偉いけれど、主人の金を利用して、恩を売っているわけですからね。(略)
まあ、この話はあまりにおかしいからか、あるいはルカにしか載っていないからか、とにかく、それほど論じられているのを読んだことがありません。」