読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

アントニーとクレオパトラ

シェイクスピアは、恥ずかしながらほとんど読んでいません。
ロミオとジュリエットハムレットは、一度は読み、オセロやリヤ王は、
チャレンジはしました。

でも、全く入り込めません。
このアントニークレオパトラも、多分ダメだろうと思ったのですが、
あの「タイガーと呼ばれた子」の中で、シーラがあれほどに感銘を受けた本なので、
一体、どこに感銘を受けたのか、気になったのです。

誕生日のプレゼントとして、この本を選んだジェフは、「世界でももっともすぐれた物語のひとつだ」と言いました。「きっと心の友にめぐり会える」とも言いました。

それで、読んでみたのですが、やはり、なかなか入り込めず、なぜそれほどすぐれた物語なのか、ピンと来ませんでした。


ただ、一つ、強烈に感じたことがあります。これは、事実だということです。
もちろん創作の部分が大部分としても、クレオパトラアントニーも現実にあの時代の実在の人物で、その二人が愛し合い、子を為し、同じ時期に自殺した、というのは、事実なのだと思います。

事実の力は大きいと思います。
こちらに迫って来る説得力がまるで違います。

そして、これは、多分にシェークスピアの創作の部分なのだと思いますが、
アントニーは素晴らしい人でありながら、愚かさを持っている、また、
クレオパトラも、強い女性ではあっても、見えない、知ることが出来ない、全知全能ではない人間の弱さを持っている、ということが鮮やかに描かれている、と思いました。

そして、互いに本当の本当は…?と裏の裏、底の底を疑い、愛を信じ切れないでいる。その感じが身につまされます。



印象に残った部分をメモします。

ファイロ それ、当の二人がやって来る。よく見るがいい。まざまざと窺い知れよう、世界を支える三本柱の一つが、変わりも変わったものだ、今は娼婦お抱えの阿呆になってしまった。さあ、とくと見るがいい。

クレオパトラ そのお心持が愛だと、まことその通りなら、聞かせてくださいまし、どれほど深く愛しておいでか。

アントニー 世の常の浮薄な愛なら、そうして測られもしよう。

クレオパトラ どこまであなたに愛されているか、その果てをはっきり見きわめておきたい。

アントニー そうしたら、きっとあなたは目なかいに新しい天地を見出さずにはすむまい。」



アントニー ローマの都もタイバー河に飲まれてしまうがいい、伸びゆく帝国にまたがる広大なアーチも落ち崩れるがいい!これこそおれの宇宙だ。王国などは土くれ同然、この汚らわしい大地ときたら、畜生も人間も見境なしに餌をくれる。人生に貴きものありとすれば、ただこうすることだ。(クレオパトラを抱く)


これほど想い想われた二つの魂が、このような二人の男女が、こうして抱き合えるなら、もうそれだけでよい、おれは世間の奴ばらに有無を言わさず認めさせてやる、それだけで二人は眉をあげ、無類の仕合せ者と言い切れるのだと。


クレオパトラ よくもそんな噓を!ファルヴィアを妻にしておきながら、それでも愛していなかったと、どうしてそんなことが?この私は世間の目には阿呆としか映るまい。そしてアントニーはやがて目が醒め、いつもの己をとり戻ず時が来よう。(略)



アントニー もうやめにせぬか、向こう気の強い女王だ!もっとも、このお方には、何でも似合う、叱るもよし、笑うもよし、泣くもよし、どんな激情も、その器に盛られれば、みごと己を生かす。その美しさ、素晴らしさ!使者などに用はない、この女人の使者とあらば別だが。今宵はずっと二人きり、街々を彷徨い歩き、市民の暮らしぶりを間地かに見たいものだ。さあ、わが女王様、ゆうべはそれがお望みだった。(侍者に)もう何も言うな。(クレオパトラと共に侍者たちを率いて退場)(略)



ファイロ うむ、時にはな、アントニーアントニーでなくなるのだ。そうなると、あの片時も失ってはならぬはずのひときわ優れた心の働きも、さすがにどうかなってしまうと見える。」




クレオパトラ ああ、不実な男もあったもの!悲しみの涙で満たし、柩に収めねばならぬ、あの神聖な涙壺を、どこに置き忘れておいでか?これで解りました。ええ、解りましたとも、ファルヴィアが死んでくれて、おかげで、私が死んだとき、どうあしらわれるかが目に見えるよう。


(略)


クレオパトラ そうファルヴィアも私を訓してくれた。構いませぬ、向こうをむいて、あの人のために泣いて、そして私に別れを告げ、エジプトの女王のために流した涙だというがよい。さあ、お芝居を見せてもらいましょう。上手にうわべをつくろい、精々まことらしゅう見せかけるのです。


アントニー 怒るぞ、もうよせ。

クレオパトラ お芝居はもっとお上手なはず、いいえ、今でも相当なものだけれど。(略)」



クレオパトラ どんなに辛いことか、まるで身を絞られるよう、気紛れは気紛れでも、このクレオパトラは燃える胸の呻きにかけてそれを産むのだもの。もうそれは言いますまい。私を許して。どのような魅力も、この身にとって所詮は仇、肝心のあなたのお目に好もしく映らなければ、甲斐もない。名誉にかけて帰らねばならぬとおっしゃる。


それなら、誰一人憐れむ者もない私の愚かな言葉に等、耳をお貸しにならぬよう、そして神々もこぞって征旅のお見方を!その剣のうえに勝利の月桂樹が輝きますよう!行く手、行く手に、滞りなき勝ち戦の花が散り敷かれますよう!



アントニー さ、奥へ。何のことはない、別離とはいうものの、のちに想いが残ると言えば残り、消えると言えば消える、ただそれだけのこと、つまり、その身はここに留まるも、しかも我と共に行き、我はこの地を去るも、なおその身の傍に在るのだ。さ、行こう!(一同退場)」


〇 途中ですが、今日はここまでにします。