読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

アントニーとクレオパトラ

クレオパトラ  おお、アントニー、私の臆病な船の帆のおびえはためきを許して!附いておいでになろうとは夢にも思いませんでした。


アントニー  私のエジプト、知り過ぎるくらい知っていたはずだ。おれの心がお前の船の舵に堅く結びつけられていることを、そうしておれがお前に曳き舟されて動いていることを。おれの魂を思いのままに操っている自分を知らぬはずはない、お前の差招きがあれば、神々の命に背いても必ずついて来るおれと解っていたはずだ。



クレオパトラ  ああ、赦して!

アントニー  この上はおれも、あの若者に使者を送り、辞を低くして和を請い、卑しい奴らの用いる言い逃れやごまかしの策を弄せねばならぬ、かつては世界の半ばと戯れ、心のままにその運命を左右したおれだというのに。



お前は十分知っていたはずだ、自分がいかにこのおれを強く支配していたか、おれの剣は、いかに愛情のために脆くなり、事の如何を問わず、その言うなりになっていたかを。



クレオパトラ  許して!許して!


アントニー  涙を落すな、その一滴一滴が、おれの得たもの失ったものすべてに値する。さあ、口をくれ、これで何も彼も償われる。先程、例の子供たちの仕附役を使者に出しておいた、もう帰って来たか?


おれの心は鉛のように重い。酒をくれ、誰かおらぬか、それに食べる物も!運命の女神には見透しであろう、我々人間は女神を一番馬鹿にして掛かるのだ、女神の方で一番手厳しく攻め立てている時にな。(一同退場)」





クレオパトラ  シーザーのお考えは?

サイディアス  それは別室にて。

クレオパトラ  みうちしかおりませぬ。ありのまま申すがよい。(略)


クレオパトラ  先を。さすが王者に似つかわしい。


サイディアス  シーザーは見抜いておいでです、女王がアントニーをお受入れになったのは、愛したからではなく、恐れたからであると。


クレオパトラ  おお!

サイディアス  今、御名誉が傷つけられたとはいえ、それも強いられたものであり、責めを負わせるのは気の毒だと申しております。


クレオパトラ  シーザーは神にも等しいお方、さすがによく真実を見抜いておられる。私の名誉は進んで与えたものではない、あながちに奪い取られたものなのだ。



エノバーバス  (傍白)真偽の程はタントニーに訊いてみよう。大将、水洩りが大分ひどくなってきましたな、こうなっては沈没を見殺しにするほかはない、一番大事にしておいでだったお方が逃げ出そうというのですからな。(退場)(略)



サイディアス  それこそ女王にふさわしい最善の道にございます。分別と運命とが互いに相争う時、 分別が己のなしうる限り戦いさえすれば、いかに移り気な骰子の目も決して不利には働きますまい。何とぞわがい敬意の御印をその御手の上に。



クレオパトラ  シーザーの父君もまた、その頃は諸国攻略に余念のない日々をお過ごしだったが、やはりこの何の取柄もない手に、しばしば口づけの雨をお降らせになったものだった。(手を与える)



アントニーとバーバスが二たび登場。



アントニー  そうまで遇してやらずとも!何者だ、貴様は?


サイディアス  満ち切ったい運命の潮に掉さす最高権威者の命を受け、その執行に惨状しただけの者。


エノバーバス  (傍白)鞭を食らうぞ。


アントニー  (叫ぶ)おい、誰かいないか!(クレオパトラに)ああ、この売女!
(間)何ということだ、もうおれには権威がないのか。ついこの間まで、おれが一声「ほう!」と叫べば、国々の王どもが物拾い競技の子供たちよろしく我勝ちに馳せ参じ、「御用は?」と口々に叫んだものだったが。



侍者が急ぎ登場。



(略)

アントニー  畜生!そいつに鞭を食らわせろ!それがシーザーに随順する最強二十王国の王であろうと、その女の手にじゃれついているところを見たら_この女の名は何という、かつてはクレオパトラと呼ばれていたが?



そいつに鞭をくれろ、子供のように顔をしかめ、泣き喚いて許しを乞うまで痛めつけてやるのだ。向こうへ連れて行け。

サイディアス  マーク・アントニー_


アントニー  引いていけ、済んだら、もう一度ここへ連れてこい。シーザーのその小僧におれの返事を持たせて追返してやる。(侍者数人でサイディアスを連れ去る)


貴様はもう萎みかけていたのだ、おれに会う前からな……はあ!  おれはローマにいたとき、枕に皺を附けることを許さず、嫡子を儲けることを禁じて、婦女の鑑ともいうべき妻をしりぞけてきた、それもあんな乞食めらに色目をくれる女にだまされようためなのか?


クレオパトラ  待って_


アントニー  貴様は昔から主を選ばぬ浮気馬だった、だが、人間という奴は一度濁り江に身を浸しはじめると_浅ましいことだ!_賢い神々までわざわざ乗り出して来て、手ずからこの目蓋を綴じ付け、澄んだ分別を汚物の中に抛り込み、われとわが過ちを讃美させる、そうしておいて、われわれ人間がいい気になって破滅の淵に歩み寄って行くのを、傍で眺めて笑っているのだ。


クレオパトラ  おお、それほどまで?


アントニー  始めて会った時、貴様は死んだシーザーの皿の上の冷めた食い残しだった、それどころか、ネーアス・ポンペイの食い散らかした残り物だったのだ、いや、それより激しい邪淫に身を溶かした数々の思い出があろう、世の取沙汰にならぬをさいわい、そうして貴様は淫らな摘まみ食いに耽ってきたのだ。



そうだ、お前には、貞潔とはどうあるべきか、大よそ見当はついても、それが実際どんなものか、解ってはいないからだ。



クレオパトラ  どうしてそのようなことを?


アントニー  褒美を貰って「おありがとうございます」などと言うような奴に、おれの遊び相手のお前の手を、気高い心の証でもあり誓いでもあるこの王者の手を、馴れ馴れしく弄り回させるとは!おお、おれはいっそバシャンの丘に登り、角の生えた家畜の群れに投じて喚き叫んでやりたい!


畜生のまねをするいわれが、おれには十分あるのだ、行儀よく口をきけと言うのか、まさか死刑で首を締められながら、執行人の手廻しの良さに礼を言えとは言うまい。



侍者いがサイディアスを連れて二たび登場。(略)



クレオパトラ  もうお済になりまして?

アントニー  ああ、おれの月が蝕まれてしまった、それもアントニーの滅亡を知らせる前兆としか思われぬ。



クレオパトラ  お心の鎮まるのを待つほかはない。


アントニー  シーザーに諂うため、その下着の紐を結ぶ召使いに秋波を送るのか?

クレオパトラ  まだ私の心がお解りになりませぬか?(略)


クレオパトラ  今日は私の生まれた日、一日わびしく過ごそうと思っておりました。でも、こうして目の前にふたたび昔のアントニーを見たからには、私も元のクレオパトラになりましょう。



アントニー  おれたちはまだ何とかやってゆける。」




アントニー  何も彼も終りだ!あのいかさまのエジプト女がおれを裏切ったのだ。味方の艦隊は敵に降伏し、沖ではたがいに帽子を投げ合い、長く会わなかった仲間同士のように祝杯を挙げている。三たび男を変えた尻軽女郎め!貴様だぞ、おれをあの青二才に売り渡したのは、そうだ、憎いのは貴様だけだ。


逃げたければ、皆、勝手に逃げるがよい!おれの心を惑わずあの魔女に復讐しさえすれば、後はどうでもよいのだ。逃げたい奴は勝手に逃げろ、行ってしまえ!(略)



裏切られたのだ、おれは。おお、よくも人をたぶらかしたな、エジプト女め!あの恐ろしい魔女、その目ばたきがおれの兵どもを狩り出しもし、また呼び戻しもしたのだ、その胸こそおれの王冠でもあり、生き甲斐でもあったのだ、そこらのジプシー女おろしく小手先の手品でおれの目をごまかし、まんまとこの心を盗んだのだ。おい、エロス、エロス!



クレオパトラが登場。


アントニー  ああ、魔法使い女!行ってしまえ!

クレオパトラ  愛する者をなぜそう憎々しげに?


アントニー  消え失せろ、さもないと恐ろしいことになるぞ、シーザーの凱旋の飾り物が消えて無くなるのだ。さあ、奴に連れて行ってもらえ、歓呼の声を挙げて迎える平民どもの前で胴上げしてもらうがよい。奴の戦車の後から、我こそは女の面汚しとばかりに、のろのろ附いて行くのだ。


珍無類の化物よと取るに足らぬ小者を喜ばせ、小銭稼ぎの見世物になるがよい、そうして、今日まで耐え忍んできたオクティヴィアの鋭く磨いた爪の先を、存分その顔にるがよい。(クレオパトラ退場)(略)」



〇 ほんの一部をメモするつもりで始めたのですが、こうして一文字一文字キーボードとはいえ、書いていると、以前よりもしっかりと頭に入ります。
最初に読んだ時より、理解が深まる気がするので、もう少し続けます。