読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

私は女性にしか期待しない

〇 松田道雄著 「私は女性にしか期待しない」(岩波新書) 1990年発行を読み直しました。今、古本をどんどん処分しています。これも一旦は、捨てようと思ったのですが、もうしばらく持っていることにしました。

松田道雄さんには、育児書で本当にお世話になりました。昔は、私から見ても、真っ当な感覚の人の言説が、きっちり巾を聞かせていたように思います。今は、総理大臣自らが、自国の憲法をいじましい、恥ずかしい憲法だと言って回り、それが、全く、批判もされずにいます。こんな時代が来てしまったことが、悲しくてたまりません。

この本は、とても、読みやすくシンプルな表現で書かれています。その一部をメモしておきたいと思います。


「Ⅰしきたりの力  イエ
以前の女は、自分が選んだ男と結婚するのではなく、親がえらんだ「なんとか家」に嫁入りさせられるのでした。女は娘時代は親のイエにたよって生き、嫁にいけば婚家にたよって生きねばなりませんでした。自分ひとり立ちして生きることはできません。


弱い女、弱った年寄、いとけない子供を守るのはイエです。先祖から子孫まで代々生きつづけて、家族と使用人の面倒をみるのがイエです。そのイエの頭になるのが男です。



男はいってみれば、イエという福祉施設の長なのですから、責任があります。家のシンボルである先祖の名をけがすようなことはなりません。先祖の祭りは、家族にイエの誇りを忘れないようにする行事です。



父親は先祖からのイエの名誉をうけついだ人です。子供に父親を尊敬するように、小さい時からしつけます。それが親孝行です。
福祉施設であるイエの経営をうまくやることは男の責任です。イエに嫁入りしてきた女は、その経営を手伝わねばなりません。



貝原益軒は「家道訓」のなかで言っています。
「家を上手に維持するのと、上手に維持できないのとは、夫に徳があるのと、ないのとによるだけでない。また妻の行いの善悪によるものだ。昔の人が家が貧しくなると、良妻がほしくなるといったのも、あたっている。


夫は家の外の管理をし、妻は家の内の管理をするのが職分である。夫がよくつとめ、節約をしていても、妻がだらしなくて、ぜいたくをしていると、家を維持できない。ことの貧しい家は、ひとえに妻の力によって、さかえもし、衰えもする。



夫はいつも家にいるものでないから、妻のしていることを知らないで、まかせっきりにしている。それを妻が不徳であると、財を失って家が滅びてしまう。だから身分の高い武家も庶民も家が滅びるのは、多くは妻が悪いのである」



今でも耳にするようなことを益軒は言っているでありませんか。
「世の中は男女分業なんだから、キミが家で働くのは、あたりまえじゃないか」とか、
「こんなに赤字がでるのは、キミのやりくりがまずいからだ」とか。



時代が変わったということが頭にないんです。長男が代々イエをついでいく制度は、戦後の戸籍法でやめになったのです。結婚の届け出をしたら、夫婦は新しい戸籍をつくって、親の戸籍からわかれるのです(第16条)。女も勉強すれば男と同じ職業につけます。女は、イエにたよらないと生きていけない、よわいものでなくなりました。


イエがなくなったのに、イエの古いしきたりに女を押し込もうとするのは頭が古いのです。」



〇 この本を読んでいると、「時代が変わったのです」という言い方がよく出てきます。季節が変わるように、時代が変わった…そんな印象になってしまいます。

そして、今また、時代が変わりつつある…。戦前に戻されてしまう。
「自分たちで社会を変える」のではなく、時代が変わったので、その時代に合わせて生きなければ…と言っています。頭が古いのは、ダメだよ、と。

そうしか言いようがないのは、解るのですが、何か引っかかります。