「橋爪 今日本経済は、いつ心筋梗塞で突然死してもおかしくない、成人病のかたまり状態だと私は思っています。そこでまず、第一部ではその病状を診断したい。血圧や中性脂肪や悪玉コレステロールや体重や心電図や動脈硬化の進み具合や……で、心筋梗塞がどれくらい差し迫った危機か、わかる。日本経済の病状診断のための、データをまず教えていただきたいのです。一般の読者の皆さんにもわかりやすいように。(略)
橋爪 第二部は、第一部の診断を踏まえて、かりに心筋梗塞が起ったら、どんな症状に見舞われることになるのか、考えてみたいと思います。
小林 具体的な症状としては、ハイパーインフレですね。インフレが2%ではとまらなくなり、一年間で物価が二倍、三倍と急上昇して国民生活が成り立たなくなる。
橋爪 (略)第三部は、そうした破局的な症状を招くことなく、日本の経済と社会がすこやかに体質を改善するには、どうしたらよいのか、その道筋を考えてみたいと思います。
小林 専門家の間では、日本経済の先行きを心配するひとは多い。でも、一般のひとびとは何となく人ごとのように思っていて、真剣に考えているひとが少ない。橋爪さんと対談することで、日本経済が最悪のシナリオを免れる道がひらけるとよいと思います。」
「国債とは何か?
(略)
小林 政府の活動にはお金がかかります。公務員には給料を、公共事業者には工事代金を支払わなければなりません。本来なら税収から支払うべきですが、足りない場合には国債を発行し、家計や銀行にそれを買い取ってもらう。いやば借金ですが、そのようにして借りたお金で支払いを済ませるわけです。その時政府が発行する債務証書が国債なのです。
橋爪 借金を、証券化しているわけですね。
小林 そうです。
橋爪 なぜ証券化、するのでしょう。
小林 証書にすることで、マーケットで売り買いが出来るようになる。それによって現金化しやすくなるので、国債を買いたいという人が増えるわけです。
そうではなく、売買できるようにすれば、途中でいつでも現金化できるわけですから、「買ってもいい」ということになる。このようにして、国債が流通しやすくなれば、政府も国債をより多く発行することができ、したがって、より多くのお金を集めることができるようになる。そういう効果があるわけです。」
(略)
「橋爪 なるほど。
国債は政府が、自由に発行できるのですか。
小林 日本の場合は無理です。財政法という法律があるからです。ここが日本の面白いところで、そもそも国債の発行は、財政法によって禁じられているのです。正確に言いますと、建設国債以外の赤字国債の発行は禁じられている。
橋爪 えっ、「禁じられている」んですか。
小林 はい、そうです。
ところがそうなると、五〇年も一〇〇年も耐久性のある橋を作る時のコストを、現世代えで負担するのはおかしい、将来世代もその恩恵にあずかることになるわけだから、そういう場合に限って国債を発行してもいいのではないか、ということになった。
橋爪 建設国債は、それで作った橋やダムが現物として残るのだから、国が借金えもいいのだ、という話を中学生のころ、聞いたことがあります。
小林 そういう議論が一九六〇年代なかばに起って、六六年の当初予算から建設国債を発行することになったのです。また一九六五(昭和四〇)年は「四〇年不況」と呼ばれた厳しい不況だったため、税収減を補填するためだけでなく、例えば公務員の給与を支払うためにも、国債を発行してお金をかき集めなければならなくなったわけです。
橋爪 それが赤字国債ですね。これはどうやって発行するのでしょう。
小林 特例法を制定します。「やってはいけない」と法律に書いてあるので、別の法律を作って「やっていい」ということにする。その都度、「今年はこれだけの金額の赤字国債を発行してもいい」という法律を国会で可決して、その金額分だけ赤字宇歳を発行するのです。これを延々と何十年も続けてきている。
(略)
橋爪 否決されたらどうなるのでしょう。
小林 赤字国債の発行が出来なくなります。実際、二〇一二年にそういう危機が生じました。当時は民主党政権で、衆議院では赤字国債発行法は可決されたものの、参議院では自民党が優勢だったため、否決されてしまった。最終的には民主、自民、公明三党の合意ができ、赤字国債を発行することができました。
橋爪 国債の利率は、どうやって決まりますか。
小林 利率は政府が決めますが、現実にはマーケットが決めているといっていいでしょう。それは国債の売り方と密接な関係があります。今は入札方式を取っています。
たとえば、「一〇年後に一〇〇万円を返します」という国債の入札を、政府が募るえです。これに対して銀行や証券会社が、「その条件なら現金九〇万円で買います」というふうに応札する。こうして利率が決まっていく。」
(略)