読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス(3 「財政敗戦」へのカウントダウン)

「国家予算のからくり

橋爪    ではつぎに、日本の財政についてお尋ねします。
国の財政には、歳入と歳出がありますね。また会計には、一般会計と特別会計の二つがあります。これらを合わせれば、財政のお金の出入りの全体になるわけですね。


小林   はい。


橋爪   特別会計には、どのようなものがあるのでしょうか。


小林   年金やエネルギー対策など、ざっと一九もの特別会計があります。


橋爪   なぜそんなにいくつもあるのですか。


小林   特別会計は、「受益と負担の関係を明確にすべし」という考えから作られているからです。具体的な例を挙げて説明します。


たとえば、エネルギー対策の特別会計には、ガソリン税があります。これをなぜ一般会計に入れないのかというと、「ガソリンを消費する自動車のユーザーのための道路整備なのだから、ガソリン税は一般会計とは別扱いにし、その税収は道路整備のためだけに使おう」という考え方に立っているからです。


年金であれば、徴収した保険料はいずれ受給資格者に支払われるわけだから、一般会計にいれるのはおかしい、ねんきんだけの特別会計を設けるべきだという考えがあって、そうなった。
このようにして一九もの特別会計が儲けられることになったわけです。



橋爪   特別会計を合計すると、一般会計と同じくらいの規模になるのでしょうか。


小林   社会保障給付費と国債償還費等を含めると、特別会計の合計額は、約一九五兆円です。一般会計は九七兆円ですから、一般会計よりも財政規模がはるかに大きい。



橋爪   それって、異常じゃないですか。政府の一般会計が、財政の本体のはずです。それのおまけとして、一般会計の五%か一〇%ほど、特別会計がくっついているというのなら、まあ理解できます。本体よりも、二倍以上あるなんて、理解不能です。



小林   政府が勝手に使えるお金が一般会計の二倍あるというより、年金給付や国際償還のために機械的に必要となる支出が計上されて膨れ上がっているのですが……。


橋爪   一般会計と特別会計で、ルールの違いは何かありますか。たとえば、一般会計の場合、予算案は国会で議決しますが、特別会計もそれと同じでしょうか。


小林   はい。いずれも、衆議院参議院で予算審議を経なければなりません。衆議院に先議権があるという点も、まったく同じです。しかし、違いもあります。一般会計の場合、国会審議の場において、その中身や使い道について国会議員が相当チェックをするのですが、特別会計の場合、時間がないといった理由で、そうしたチェックがほとんどなされません。



橋爪   えーっ、チェックがない。それは、憲法違反ではないでしょうか。


小林   いいえ、形式上は国会での審議を経た上で成立していますから、憲法違反ではありません。


橋爪   でも国会で、「実質的な審議をせよ」というのが、憲法の精神でしょう。


小林   確かに、憲法の精神には反していますね。しかもそれが常態化しています。

橋爪   いつ頃からそんなふうになったんですか。


小林   戦前は軍の予算が特別会計で好き放題をしていましたからね。特別会計は担当省庁の聖域だという意識は昔からあったのかも知れません。



橋爪   一般会計を上回る規模になったのは、いつごろでしょうか。


小林   財務省の資料を見ると昭和四〇年代には上回っていたようです。その主因は社会保障費、とりわけ年金特別会計が巨大化したことです。最近は、財政の悪化が生んだために、国際償還費等の金額が膨張しています。(略)


橋爪   国の財政を説明した図などを見ると、一般会計を現す円グラフしか出て来ない。特別会計もそこに入れるべきではないでしょうか。



小林   それにはマスコミの問題もあるかも知れません。一般会計は、毎年、財務省と各省庁の間で予算折衝や政治的駆け引きがありますが、特別会計既得権益化しているため、財務省と各省庁の間に戦いはなく、静かに決まります。


マスコミは、財務省VS各省庁の攻防戦というドラマ性のある話に気をとられて、一般会計ばかり報道するのではないでしょうか。



橋爪   GDPが年間五〇〇兆円ほどのこの国で、一般会計だけで九七兆円というのは、そこそこの規模です。特別会計を含めれば、さらに莫大になる。しかもノーチェック。こんないびつな財政で、いったい民主主義と言えるのだろうか。


(略)


小林   先ほども述べましたが、特別会計は「受益と負担の関係を明確にすべし」という理念に基づいて創設されたもので、たとえばガソリン税の歳入を、いかなる政策に充当するかは、あらかじめ決まっている。


このため財務省は、そうした歳入を用いて各省庁は必ず、必要な政策を行うだろうと思い込んでしまい、その中身をあまりチェックしようとしないわけです。


橋爪   ひどいことになってるなあ……。
特別会計では、歳入と歳出が均衡するようになっていますか、それとも、赤字が出るんですか。(略)



小林   そこがまさに魑魅魍魎が跋扈する政治取引の場となっていまして、一般会計から特別会計に貸し出しを行い、そうして借りたお金で道路を造る場合もありますし、逆に、お金の余った特別会計から一般会計へ貸し付ける、というケースもあります。



橋爪   それじゃあ、特別会計の意味がないじゃないですか。粉飾会計ではないですか。


小林   はい。非常にわかりにくい世界です。一般会計の見栄えをよくするための会計操作が長年の「知恵」として行われてきたのです。


橋爪   各省庁の省益、関連業界の利権、政府の都合。このン三つの要因が重なって、いつの間にか、そういう不魔殿のような、ガン細胞のタンコブのような、非憲法的な制度になってしまったんでしょう。緊縮財政なんて、まったくの寝言ですね。チェックがまるで働いていないわけですから。



小林   チェックが極めて甘くなっているのは確かです。民主党政権事業仕分けでそこを改めようとしたのです。しかし、時間も人手も足りず、無駄な部分をあまり削減できなかった。


たしかに無駄な部分がかなりある。ただ、一〇〇〇兆円の借金と比べれば、何百兆円もの無駄があるわけではありません。もちろん、精査して、ギリギリまで無駄をなくせば、数千億円規模の節約にはなるでしょう。しかし、国債の債務残高に比べれば、非常にインパクトの少ない数字だと思います。」