「国も地方も税収不足
橋爪 じゃあ、気を取り直して、歳入と歳出の関係についてお聞きします。
一般会計もひどいことになっていて、九七兆円の予算に対して、歳入はなんと、その半分弱しかありません。税収の足りない分は、国債によって賄われている。しかも、多くの人は一般会計士か見ておらず、特別会計は視野に入っていません。
特別会計にも赤字というものがあるのですか。
橋爪 禁じられている。一般会計がその、尻拭いをしているわけですね。
ところで、国家財政のほかに地方財政があります。その両方を、まとめて表現する概念はないんでしょうか。
小林 国と地方自治体を合わせた概念として、一般政府という言葉があります。
橋爪 ただ国民の間では、「一般政府」という言い方は使われていませんよね。
(略)
小林 はい。とりわけ財政論議を行う場合には、この概念を用いた方が公的セクター全体を捉えることが出来るので都合がいい。政府の統計には一般政府という項目が必ず出てきます。日本のメディアも、この言葉をもっと使うべきです。
(略)
橋爪 慢性疾患たるうえんを確認すると、国も地方も、財政構造がとてもいびつで、歳入が少なすぎる。にもかかわらず、歳出が多い。その赤字を、国債で穴埋めしている。基本認識は、これでいいですか。
慢性疾患を招いたもう一つの要因は、高齢化の進展に伴う社会保障費の増大などによって、歳出がどんどん増えていったことにある。
政府は「不況が終わったら増税をしよう」と考えていたのですが、不況はいっこうに納まらず、しかも増税に反対する意見が強いので、なかなか決断がつかなかった。こうして、歳出は増えるいっぽうで歳入は横ばい、という財政構造が定着してしまったわけです。
橋爪 もし小林先生が、二〇年ほど前に財政当局の責任者だったら、こういう政策を推進していたと思いますか。
小林 難しいところがありますね。もしかすると、していたかもしれません。
(略)
橋爪 それなりに効果があった、ということですね。
小林 少なくとも九〇年代は仕方がなかったと思います。ただ、その後、早い段階で増税しておくべきだった。(略)
小林 公平性を重視するなら、消費税の税率は上げて、低所得者への対策はそれとは別にバウチャーなどの現物給付を行うというのが一番望ましいと思います。
橋爪 私もそう思います。
小林 他方で、所得の多い人にはその分多く課税するという、所得税の累進性を高めるべきだという意見もあります。
橋爪 それには疑問があります。というのも、現役世代に負担が集中してしまいますし、脱税が起きやすく、捕捉率(課税すべき租特のうち、実際に課税できる割合)を高められるかどうかもわからない。
小林 そうなんです。いま大切なのは、税負担に関する世代間の平等性をどう実現するかということです。(略)
橋爪 まさしくその通りです。
ところで地方自治体の歳入も、国家財政の歳入と似たような状況なのでしょうか。
小林 地方自治体でも、企業が支払う法人住民税、事業税といった法人関係税が、歳入のかなりの部分を占めています。
小林 毎年、約一七兆円にはなっていると思います。
橋爪 国民一人当たりに直すと、一三万円強。すごい額ですね。
小林 はい、各地の行政サービスが同水準になるよう交付されているので、これだけの額になってしまうようです。国の一般会計から支出されています。」