読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス

「良いインフレと悪いインフレ

橋爪   日銀券が増えれば、景気が少しは良くなりますか。


小林   いま景気を押し上げているのは、マイルドなインフレ期待と円安です。これが種々の作用を及ぼして、景気を上向かせたとは言えるでしょうね。


日銀や内閣府は企業や個人に対して景気の見通しを尋ねる調査を行っていますが、それを見ると、確かに景況感は改善しています。とりわけ経営者心理がよくなっている。」

〇 2018年の景況感、このサイトで見せてもらいました。


「橋爪   一〇もの国債金利は、一%から〇・五%に向って、下がっているわけですよね。他方で、日銀による「異次元緩和」によって、インフレ期待が醸成され、現にゆるやかにインフレが進行しつつある。インフレが進行した分(物価上昇分)は、金利に上乗せされるはずですが、そうはなっていない。なぜ、こんなことが生じるのでしょうか。


小林   〇・五%へ向かっているのは名目金利で、これは実質金利にインフレ率を上乗せしたものです。名目金利は、日銀の金融政策のおかげでゼロぎりぎりのところまで下がっている。実質金利のほうは、下手をするとマイナスになっているかも知れません。


橋爪   金利が、ゼロ以下になる、のですか。

小林   実質金利の場合、ありえます。実際、アメリカのFRBが行っている金融政策は、実質金利をマイナスにするというものです。実質金利がマイナスになれば、借金をすると利子を払うのではなく利子をもらえるのに等しい状態になります。


すると多くの人が借金をして買い物をしようとする。それによって景気が回復する。FRBの金融政策はそうした効果を狙ってのもので、日銀のそれも、基本的には同じです。



しかしインフレには、良いインフレと悪いインフレがある。今日本で起きつつあるのは、後者の悪い方のインフレです。具体的に言うと、円安が進み、海外から輸入するしかない石油や原材料の価格が高騰し、それに伴って原材料コストも高くなるため、商品価格も値上げせざるをえなくなる。


それによって景気が悪化するという仕組みです。この手のインフレには、景気を良くする効果は期待できません。良いインフレとは、消費需要や投資需要が増えて、品不足になって物価が上がることです。


こちらは景気が良くなって物価が上がる、ということなので良いインフレと言います。アベノミクスの狙いは良いインフレですが、現状はまだ悪いインフレから良いインフレになり切れていない。」


(略)


「小林   はい。国債価格が下がることと、金利が上昇することは、同じことです。ですから、普通に考えれば、インフレになれば金利が上がり、それに連動して国債の利回りも上がっていくはずですが、いま、日銀が「異次元緩和」を行って、国債を無制限に買い入れていますので、きちんとした予想ができません。


橋爪   日銀はなぜ無制限に、国債を買い入れているのですが。


小林   安定したインフレを実現するためです。(略)
国債の大量購入は、マネーの大量供給と同じなので、この政策を続ければ市場に出回るマネーの量が増え、インフレが起きるはずなのです。インフレになった時に、名目金利をゼロ近くに抑え続ければ(これは短期的には可能です)、実質金利がマイナスになるので、消費や投資が増えて、景気が良くなるわけです。日銀の目標は、インフレによって、最終的に景気を良くすることなのです。



橋爪   日銀は、そのような政策誘導を、政府に言われてやっているのですか。


小林   政府との合意に基づいています。もちろん、日銀の金融政策については独立性が認められていますが、日銀の黒田総裁と安倍首相は、「景気を良くして二年後には二%のインフレを実現させる」という目標を共有しています。いわば、一心同体なのです。


実際いま、インフレになりつつあり、それに対して日銀は、国債の利回りが高騰しないよう、国債を無制限に買い続けているというのが現状です。



橋爪   金利が上がるとは、新規発行する国債の価格が下落してしまう、ということですね。


小林   はい。しかもそうなると、一般会計の歳入のうち四割強を占める公債金(国債を発行して得た収入のこと)に不足分が生じるので、それを埋めるべく、新たに国債を発行しなければならなくなる。そうなると国の財政はいっそう圧迫されることになる。政府も日銀も、そんなことにならないよう、有効な手を撃たなければなりません。



橋爪   その場合、発行済みの国債について、政府に新たな負担が生じることはないのですか。


小林   はい。政府が困ることはありません。ただし、金利の上昇によって国債価格が下落すれば、国債をすでに保有している金融機関が困ることになる。


橋爪   ふうむ。
金利が一%上がれば、国債の価格は一%下がると考えていいですか。(略)

小林   いや、もっと下げ幅は大きいです。数字の大きさは国債の満期や条件によっていろいろあり得るのですが、大事な事は、金利がちょっと上がれば国債の価格がかなり大きく失われることです。国債保有している銀行などからすれば、自己資本が目減りし、損失が生じます。そうなると、銀行による貸し剥がしが起きかねません。こうした事態を防ぐために日銀は、国債を買い続けることになる。


橋爪   他の債権が値崩れを起こしても、国債だけはそうならないように、買い続けるということですね。


小林   はい。そして、国債を買い支えるということは、結果として、他の債権をも買い支えることになるはずです。(略)


橋爪   となると日銀は、国債だけでなく、日本中の債権を買い支えているのと同じことになるわけですね。


小林   その通りです。


橋爪   となると、国債を買い支える以上の、もっとずっと多額の資金が必要になるのではないですか。


小林   いえ、そんなことはありません。国債を買い支えさえすれば、先ほど述べたようなメカニズムで、金利の統一が図れますから、そこは大丈夫です。



橋爪   そうなのかなあ。
今から二年後に、二%のインフレを達成するには、国債を買い続けなければならない、と。そうだとして、それに必要な金額は、年間どれくらいになるのでしょうか。その際、銀行や生命保険会社といった金融機関は、国債を全く買わないと仮定します。


小林   そうした前提であれば、一八〇兆~一九〇兆円規模になるはずです。その内訳を言いますと、まず、毎年の借換債が一一〇兆円。それに加えて新規発行分が四〇兆円ほどで、インフレによってそれが六〇兆円から七〇兆円まで増えたと仮定すれば、先の数字になります。日銀はそれだけの額の国債を買い入れることになるわけです。


橋爪   そうすると、一八〇兆~一九〇兆円のうち、ある程度は金融機関が買ってくれないと、日銀だけで支えるのは無理じゃないですか。



小林   そうですね。民間の投資家や銀行、生保が国債を買ってくれなければ、二%以上のインフレにならないようにしながら国債を買い支えるのは不可能でしょうね。もし、銀行や生保が国債を買ってくれず、日銀だけで買い支えるということになれば、インフレ率が高騰する可能性がある。



橋爪   そうなると、日銀だけが国債を買い支える結果、日銀券が垂れ流されることになりますね。すると、それが為替に反映して、急激な円安になるのでしょうか。


小林   日銀券が加速度的に増え続ける局面では、加速度的に円安が進行するでしょうね。


橋爪   そうなると、加速度的な物価上昇率になる。


小林   しかも、輸入物価も急激に上昇していく。


橋爪   すると、これからも物価がどんどん上がっていくだろうとインフレ心理が働きますから、もともと関係のなかったものの値段も、上がっていく。
なんだか、地獄に向って一直線の、ジェット・コースターに乗っているような気がしてきました。」