読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス (第二部 最悪のシナリオ 1 暗雲)

「scene 1 

(略)

あの日が分かれ道だった、と今仁求留造はいまになって思う。
市場は、日本政府が財政再建に向けてどんな手を打つか、注目していた。しかし、日本政府は、動きが鈍かった。


年が明けると、円安を見越した投機や、日本国債売りが強まった。日銀は国債を買い支え、二月には、一週間で一〇兆円を上回る水準になった。その分、通過供給量が増加して、インフレに弾みがつき出した。このままでは、インフレターゲットを越えてしまう。


日銀は、そこで、通貨供給量を減らすため、手持ちの国債を売りに出したが、買い手がつかない。


それでも日本経済は、まだ、嵐の前の静けさを保っていた。
その後起ったことに比べれば。」


〇第Ⅱ部では、1暗雲 2ハイパーインフレ、始まる 3焼け野原 4死屍累々
という見出しで、そのシーンごとに、小説のような物語になっています。

登場人物は、
〇今仁求留造  都内のキャンパスで「国際金融」の講義を持っている
〇濃尾梨彦  首相
〇只野矢久人  日銀総裁
〇物賀高行  今仁が勤務している経済研究所の同僚
〇杉田園泰  物賀の友人で日銀性悪委員会の事務局にかかわっている

読んでいて、具体的にどんなことが起こるのかが、わかりやすい。
でも、その中の、ごく一部だけをメモします。

「危機の第一段階

橋爪   日本の国債が危機的状況に陥るきっかけとして、どんなことが考えられるでしょうか。

小林   一番起こりそうなシナリオは、日本の経常収支が大赤字になり、外国人投資家が国債をどんどん売りに出してしまうというものです。


橋爪   あるいは、外国の信用調査機関が、「日本は破綻寸前だ」みたいなレポートを書いて、世界中が驚く、とか。


小林   日本の財政がひどいというレポートは、すでに多くの信用調査機関が出しています。経常収支の赤字が定着し、黒字にはけっしてならないというレポートが出る方がインパクトは強い。

橋爪   そんなレポートが出て、アメリカかヨーロッパの財政担当大臣がポロっと不用意な発言をしてしまう。それが新聞にのり、テレビで流されて世界中を駆け巡り、株価も為替も大きく変動する。急いで記者会見を開かざるを得なくなった、日本の首相がまたもっと困ったことを口走ってしまい…


小林   そういう可能性はありますね。IMFのほか、ムーディーズS&Pスタンダード・アンド・プアーズ)といった格付け機関が日本国債の調査をし、それまではシングルAかダブルAのマイナスくらいだったのが、三つくらい格下げされる。


橋爪   そして、「投資不適格」になってしまう。

小林   そこまで、すぐには行かないと思います。(略)


(略)


橋爪   金利は何%くらいまで、上がってしまいそうですか。

小林   現時点では長期国債金利は約〇・五%ですが、このシナリオが進行する間に一%以上となり、二%に向けて上昇していくというイメージです。そうすると、大変な危機が起こり始めるわけです。いや、国債金利が二%まで上がる前に、日銀の買い支えが始まるはずです。


(略)


小林   必ずしもそうとは限りません。売り浴びせが起きるのは、「日銀は国債を 
買うという約束を果たせなくなって、いずれ国債は値下がりする」と投機家が予想するときです。(略)



値下がりがおきない、と市場が予想するなら、金融機関は、いま売らなくてもいいと判断するでしょう。すると実際に、国債の価格は下がらなくなる。日銀や政府はそれを期待しています。



橋爪   なるほど。
でも、日銀が無制限に国債を買い支えるとなると、貨幣供給量が増えてしまう。当然、インフレが起きますよね。


小林   その通りです。(略)」