読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス

「銀行が国有化されるとき

橋爪   そうした場合、銀行にはどういう対処法があるのでしょうか。

小林   まず、貸し出しを減らし、融資したお金を返してもらうということですね。そのお金で預金者に預金を返済します。(略)


橋爪   たしかに改善すると思いますが、でも、だいぶ減らさないと駄目ですね。たとえばなにかの加減で、自己資本比率が四%から二%に下がったとします。そうすると銀行は、事業規模をこれまでのおよそ半分に縮小させなければならなくなる。


これをやらずに自己資本比率を高める方法として、自己資本それ自体を注入するやり方があると思いますが、具体的にはどうするのですか。


小林   株主を増やす、ということですね。要するに、「現金を下さい。代わりに株券を差し上げます」という形での増資をするわけです。


橋爪   でも、それに応じる人がいなければ、どうにもならない。そういう場合、日銀に頼めますか。


小林   日銀は無理です。銀行も民間企業ですから、そうした企業の増資を助ける権限は日銀にはありません。


橋爪   絶対にできませんか。


小林   無理です。ですが、貸すことならできます。



橋爪   しかし、貸してもらっても、銀行にとっては、自己資本にはならないのでは。

小林   ええ。(略)
自己資本を改善するには、政府の公的資金による資本注入という手があります。しかし、そのためには「この銀行は破綻寸前である」と、政府が認定しなければなりません。そうなって初めて政府は、その銀行に公的資金を注入することが出来る。


橋爪   その場合、政府はその銀行の株券を買い上げて、代わりに現金を渡すということになるのでしょうか。


小林   少し違います。預金保険機構という、認可法人があります。ここが銀行に現金を渡して、銀行は株券_よくあるのは優先株_を預金保険機構に引き受けてもらうという形です。


橋爪   それが極端な場合は、国有化になる。


小林   政府がどれだけ関与するかによって、公的資金の両も変わってきます。その銀行の自己資本がゼロになってしまい、全てを公的資金で賄うとすれば、それは定義上、国有です。その場合、銀行経営者をクビにして、政府が選んだ人間を経営者に据えることになります。


橋爪   もし、どの銀行も軒並み危機に見舞われたとすれば、どれくらいの公的資金が必要になるでしょう。


小林   四%の自己資本比率規制に対して、現状では各行とも六~七%は維持しています。こうした状況で金利が二%上昇した場合、中小の金融機関が破綻するかもしれませんが、それもごく一部のことだと思います。



おそらく国債時価総額が一〇〇兆円下がっても、一〇兆~二〇兆円の公的資金を注入すれば何とかなるのではないでしょうか。


橋爪   値下がりした国債を、政府や日銀が買い取るという方法もありうるのではないでしょうか。


小林   日本には今、そういう制度はありませんが、危機的な状況に陥った時、新たに法律を制定し、値下がりした国債を日銀が高値で買い取るという策はありえます。


実際、FRBは、リーマン・ショックの直後、民間銀行が保有している証券を、マーケットでの価格よりもだいぶ高値で買い取るというオペレーションを慌てて行っています。


橋爪   じゃ、先例がある。


小林   はい。そういう先例がありますから、日本でも国債が値下がりし出したら、そういうオペレーションが行われる可能性はあります。


橋爪   銀行からすれば、国債なんかを保有していたから、こんなことになったというでしょうね。その元凶である国債を全部、政府が元値で買い取ってくれ。そうすればわれわれは、立ち直れる。きっと、そう思うでしょうね。



クライシス到来のポイント

1  危機の第一段階は、日本の経常収支が大幅な赤字を記録→格付け機関が日本国債を格下げ→外国人投資家が日本国債を次々と売却→日本国債金利が上昇、という形で始まる可能性がある。

2  国債金利上昇が始まった場合、日銀はそれを防ぐべく、国債を買い支える。そうなると貨幣供給量が増加するため、インフレが生じてしまう。


3  アベノミクスにより、二%のインフレが実現した場合、それと並行して強力な財政再建が実行されない限り、「出口」はない。


4  国債価格が下落すると、金融機関は貸し剥がしに走る可能性がある。国債価格が下落すれば金利が上昇するため、資金繰りが必要な中小企業や変動金利型ローンを組んでいる個人は苦境に陥らざるをえない。


5  国債金利が二%まで上昇すれば、民間金融機関などには一〇〇兆円近い損失が生まれると見込まれる。」