読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス

「下り坂のあとは上り坂


小林   他方で、賃金が一〇分の一に下落することで、人件費の安い中国と張り合える状態になっています。


橋爪   そうなんです!生産設備は無傷で残っていますし、技術力も高い。コストがかかるのは原材料費だけで、それをうまく加工して輸出すれば、かなりの競争力となるはずです。昭和三〇年代の再来と言っていいでしょう。


もちろん当時よりも高齢者が圧倒的に増えていますが、その頃とは比べ物にならないほど質の高い技術力がある。


小林   介護用ロボットなど、高齢者向け商品の技術開発力が今は非常に強い。中小企業や大学が必死になって取り組んでいます。ですから、近い将来にハイパーインフレが起きたとしても、日本が高齢化していることが逆に有利に働く可能性がある。


しかも、人件費が安くなっているので、高い技術力で高齢者向けの商品を開発・製造し、海外に輸出できるようになっている可能性が高い。


橋爪   私もそう思います。


小林   自動車などでは、韓国や中国の企業に適わないかも知れませんが、高齢者向け介護用品といった、新しいニーズをいち早く掘り起こして商品化できれば、日本企業の展望もだいぶ拓けてくる。


橋爪   そうなれば、日本に対する投資ブームが起こります。円の価値が下がり切って底を打てば、あとは上がるだけですから、リスクもない。


小林   高度経済成長のフェーズに突入ですね。数年はそうした状況が続くはずです。


橋爪   数年と言わず、一〇年以上かも知れない。


小林   ハイパーインフレが起きている数年間はひどい状態になるわけですが、その後、急速に改善していく。その間に財政構造をきちんと改革し、消費税率は三五%まで引き上げる。それによって、歳入と歳出が均衡するようになれば、思いのほか短期間で、回復できそうですね。


橋爪   ま、でも、あんまりそれを強調すると、「このまま放っておけばいいんだ」という財務省の路線みたいになってしまう。


小林   財務省は本当は「放っておきたくない」路線のはずなんですが……。


橋爪   財政再建をあきらめる(真剣にやらない)のは、なんと言い逃れようと、「放っておけ」ということです。この路線を取る限り、遅かれ早かれ、ハイパーインフレになってしまう。


小林   ハイパーインフレが終息すれば、やがて景気も回復するわけですが、ハイパーインフレによって財産を失ってしまった人、特に高齢者の方々は、失った財産をい戻すことが出来ない。ひどい話です。


橋爪   およそ三〇〇〇万人ぐらいの人々は、そうなるでしょう。


小林   高齢者に対する福祉は、相当手厚くしなければなりませんね。


橋爪   はい。だからこそ、消費税三五%です。
この本を高齢者の方々が真剣に読んでくれたら、そして結束したら、相当な政治的パワーになると思う。小金持ちの人は、福島隆彦さんの本を読んで自己防衛すればいい。けれど、そこまでの資産を持っていなくて、年金が頼りという人は、この本を読まないでどうしますか!


小林   このまま財政を放置しておくと、それこそ年金ゼロになってしまう。


橋爪   財政再建のためには、いまの年金制度をリセットしなければなりませんが、その場合、税収の範囲で当面、やり繰りすることになるのでしょうか。年金積立金も、あらかた失われてしまうわけですから。



小林   現時点で積立金は一二〇兆円ほどですから、その実質価値は一〇兆円ぐらいに減ってしまう。微々たる額です。そうなるともう、税収から補填するしかありません。


橋爪   これまでの年金制度の枠組が中途半端に残ってしまうと、かえって厄介です。一から作り直した方がいいと思います。たとえば、若い人たちについては、積み立て方式にする。高齢者に対する年金支給額は、今年は新円で、一万円(一万ドル当)、来年は 一・二万円(一・二万ドル相当)といったかたちで、毎年税収の中から決めていく。
年金支給は永続的な権利にはせず、受給資格には資産制限もつける。


小林   それはいいアイディアかもしれません。現行の年金制度は物価スライド方式といって、インフレによる物価上昇に合わせて年金給付額も上がるようになっています。このため、ハイパーインフレになった時、年金支給額も増えていくので、政府が抱える年金債務も増えていく。これをどうするかという問題があります。


橋爪   その意味でも、これまでの賦課方式はやめて、積み立て方式に転換しなければならない。


小林   しかしそれには国会の承認を得なければならない。しかも、その時の政権がそういう意思決定をしなければなりません。


橋爪   ほかに手はない。やるっきゃない。なんならIMFに、「積み立て方式に転換しなさい」と言ってもらえばいい。


何も初めてのことじゃありません。敗戦直後の日本政府が、新円切り替えと預金封鎖を実行できたのは、連合軍最高司令官がいたからです。占領下の日本国は、それに従わざるをえなかった。それと同じ理屈です。


小林   そうなんです。IMFからお金を借りる時は必ず、「構造改革をこうやります」という計画書を提出しなればなりません。たとえ主権国家であろうと、IMFからお金を借りる時には、ある程度言うことを聞かなければならない。


橋爪   主権国家は、自国の憲法で、自分を縛っている。でも、条約は別です。条約は、その国の人々全員を縛るもので、自国の都合で条約を変更したりできません。


IMFからお金を借りる時には、条約を結ぶようなものと理解できる。主権国家であろうと、条約には拘束されます。その条約が予算権や通貨発行権を制約しても、やむをえない。


小林   一九九七年に経済危機に見舞われた韓国は、一時、IMFの管理下に置かれましたが、その時、そうした経験をしています。


橋爪   日本人も、国際公約によって、予算に制約が課せられるという理屈の納得し、頑張って税金を納めていこう、という意識を持たなければ。


小林   理屈は理解できなくても、そうならざるをえない……。

橋爪   理屈を理解して、主体的に納税したほうが気持ちがいい。元気も出る。


小林   国を再建しなければいけないわけですからね。


橋爪   そこで政府は、「国際社会に対する公約を守りましょう」と、国民をせっとくしなければならない。


(略)



小林   IMF不況だと言って、韓国人は相当恨んでいます。韓国社会は今も若者の失業率がかなり高くて、その原因はIMFにあると言って怒っている。もし日本がIMFの管理下に入ったら、韓国と同様、相当苛酷な改革プランを突きつけられるのでしょうね。


ギリシャは今、年金をカットしようとしていますが、政治的な反発がものすごい。日本がもしIMFから「年金を廃止しろ」と言われたら、同じよぅな反発が起きるでしょう。


もともと危機の前から、ギリシャでは、現役世代の年収よりも、年金を貰っている人の方が年収が多いという、とんでもないことが生じていた。だからこそ。年金額を減らそうとしているのですが、なかなかうまくいかない。


橋爪   そんな国は、軍事占領されても文句は言えないんじゃないか(笑)。


小林   確かにそうかもしれません(笑)。もちろんギリシャ主権国家ですが、任せきりでは事態がなかなか改善しない。しかし、人ごとではありません。日本でもと、同じようなことが起きるでしょう。預金封鎖、新円切り替え、年金大改革……、このあたりは胸突き八丁で本当に大変なことになる。」


※ この後は、「人命が第一」へ続きます。




〇 漠然とした疑問があります。これまでの話の中で、日本の財政危機は、「高齢化に伴う社会保障費の増大による歳出の増加の結果である」、と小林さんは言っていました。つまり、恩恵を受けている人々が悪い、というように聞こえます。

そして、橋爪さんは、高齢者こそ、この本を読みなさいと言う。
「年金制度が悪い」「年金をカットすべし」という本を読んで、高齢者にどうせよ、と言うのでしょう。

少し捻くれて受け取ってしまいます…。

私は現在年金生活者ですが、小金持ちでもないので、預金封鎖されようが、ハイパーインフレになろうが、なるようになるしかない、と思います。

ただ、今、現在だって、ほとんど生活出来ないほどの年金しかもらっていない人は、大勢います。それでいて、あの「もんじゅ」には、一体どれだけの無駄金がつかわれたのでしょうか。なぜ、この状況下で軍事費が増えているのでしょうか。

国民が健康で文化的な生活が出来るようにする為に、税金で雇われているのが、官僚と政治家です。

その仕事を本気でしない官僚や政治家に問題があるのではないでしょうか。
「高齢化の為に社会保障費が増大したために」財政危機になった、と言う前に、
そうなることは、相当前から分かっていたはずなのに、なんら手を打たない、官僚や政治家に問題がある、と私は思います。

だから、この話の中で、「ハイパーインフレになったら、国家の借金は減り、財政は楽になる」と聞かされると、ああ、やっぱりそこが「出口」だと思っているのか、と感じてしまいます。

橋爪さんの言う年金の代わりの、(例えば)一人当たり一万円の新円(一万ドル)の支給がされますように、せめて誰もがそれを受け取れますように、と切に祈ります。