読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパンクライシス (第Ⅲ部 破局回避のための改革プラン)

「1アベノミクスを検証する
真実を語らない専門家

橋爪   私たち日本人に残された時間はわずかだ、ということが、第Ⅰ部、第Ⅱ部の議論ではっきりしました。


洗礼者ヨハネは言いました。(悔い改めよ。……斧はもう木の根元に置かれている。良い実を結ばない木はみな、切り倒され、火に投げ込まれる。)最後の時は、切迫しているのです。洗礼者ヨハネから洗礼を受けたイエスは、この言葉に共鳴して、自分も教えを説くようになりました。

ヨハネは(悔い改めよ)と言うだけですが、イエスは、こうすればいい、とその先まで教えてくれた。ぜひ、日本人がこの危機を、どう乗り越えればいいのか、その先を教えていただきたい。生き延びるためのシナリオを、探りたいと思うのです。



小林   日本がひどい財政状況に陥っているということは、経済や財政をあるていど勉強して来た人であれば、よくわかっています。危機を未然に防ぐにどうすればいいかも、はっきりしている。増税をして政府の歳入を増やすと同時に、政府が支出している社会保障関係費を減らす。つまり、入るお金を増やし、出て行くお金を減らすという、子供でもわかる簡単な理屈です。



にもかかわらず、なぜこれが国民の間でひろく理解されないままなのか。その理由の一つは、それを言わずに済むなら黙っていようという専門家の姿勢にあります。ここ二十年ほど、それがずっと続いている。


橋爪   それは聞き捨てならない。確認ですが、この問題の根源は、政府の借金ですよね。

小林   債務残高についてはそうです。


橋爪   政府の借金が膨れ上がったのは、税収が少ないのに、歳出が多いからですよね。歳出に大ナタをふるうべきです。バラマキをやめるだけでなく、肉を切り、骨を削るまでしなくてはなりません。


小林   そうです。

橋爪   でも誰も本気でそう言わない。とくに政治家が。
きちんと説明すれば、国民だってわかるはずです。何のために、どれくらいの期間、税を課すのかが明確なら、国民だって、税を引き受ける用意がある。まず、しっかり説明しなければ。
ガンなのに、告知もされず、放射線治療や化学療法がいますぐ必要なのに、気休めに痛み止めだけ処方されて、ほったらかされているのと同じです。


(略)


小林   思います。だからこそ、この本を少しでも多くの方に読んでもらい、この厳しい現実を理解してもらいたい。
政治家にしろ経済学者にしろ、何かといえば、財政以外にも重要な問題があるとか、いずれ景気が回復すれば税収も増えるので大丈夫といった言い訳ばかり。どこかで皆、いつか「神風」が吹くはずと思っているのではないでしょうか。



痛みが伴うような政策は、言い換えれば選挙民からそっぽを向かれるような政策課題は、できればいわずに済ませたい。それが政治家の本音です。


官僚は官僚で、このまま行けば、一〇〇年後には財政が確実に破綻するとわかっているのに、政治家の遺稿ばかりを忖度し、五年先しか見せようとしない。国民に対して一〇〇年先まで見せれば、いかに大変な状況かがわかるはずです。しかし、そうなると政治家は、「即刻、増税が必要だ」と言わねばならなくなる。


政治家からすれば、そんなことは出来れば避けたいわけです。
こうして官僚も政治家も口をぬぐうことになる。そうなると、シンクタンクの研究員にしろ大学の教員にしろ、ひょっとすると財政破綻など起きずに済むのでは、と思ってしまう。



しかも、民間のシンクタンクが「大変だ」と言おうものなら、官僚から叱られてしまうので、将来のことは何も言わなくなる。こうして、火中の栗を誰も拾おうとしなくなる。それが現実です。


橋爪   官僚に叱られるから、研究者が本当のことが言えない?!まるで中世ですね。


(略)


橋爪   第Ⅱ部で、経済破綻が刻々と迫っている今の状況は、軍の暴走を止められなかった戦前とよく似ている、と言う話が出ました。ならば当時、どうすれば良かったのか。


日本は中国から、軍隊を引き揚げます、満州からも手を引きます、と宣言すればよかったのです。長期的には、そうするしかなかったのですから。そしてタイムテーブルも発表する。そうすれば、戦争は避けられた。経済封鎖も解かれたでしょう。


その間に、国内の改革を進め、軍縮、所得格差の是正、国民生活の向上、言論の自由の確保など、手を打っていくべきだった。実現まで何十年かかろうと、戦争なしに、戦後日本みたいな社会に移行する道筋はあった。今なら、誰にでもわかる理屈です。


ではなぜ、それが出来なかったのか。理由は明らかです。軍に遠慮してしまったから。今と全く同じ構図じゃないですか。


小林   まさに同じ構図が半世紀たってから、日本の財政において起きている。
とはいえ、今の政府も、「借金を増やせばいい」と単純に考えてはいません。社会保障にしても、よかれと思ってやっている。もちろん、社会保障が充実するのは本当に良いことです。


誰もその価値を否定したりはしないでしょう。問題は、政府の歳入を越えた水準のお金を、社会保障費に充てると約束してしまったことです。それによって、一人当たりの負担額よりも給付額の方が多くなってしまった。



この不均衡を是正するために、どれだけ給付を減らせるか。さきほど橋爪さんは、戦前の日本は中国から撤退するなど、いくつかの意思決定をすべきだったと言われましたが、


その現代版が、まさしくこれだと思います。」