読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス

増税で安心が返ってくる

橋爪   消費税率が三五%になると、特定業界がダメージを被るかもしれず、低所得者の負担も大きいのですね。それ以外には?


小林   問題点ではありませんが、大切なことが一つあります。消費税率が今より三〇%引き上げられれば、生活水準も三〇%低下すると思われがちですが、違うんです。何故なら、消費税として徴収されたお金は年金給付や公的医療に使われますので、取られっぱなしではなく、われわれの暮らしに還元されているからです。


では、公的サービスから受け取れるベネフィットを差し引いて、どれくらいのコストが残るかというと、これが意外に小さい。私の友人のゲイリー・ハンセン教授とセラハティン・イムロポログル教授が、消費税三五%でどうなるかを計算したところ、社会全体としては消費水準がわずか一・四%ほど落ち込む程度で済むことがわかった。
年間三〇〇万円の消費をしているとすれば、それより五万円ほどすくなくなるだけという計算です。


橋爪   無視できる程度ですね。


小林   はい、きわめて小さなコストなんです。


橋爪   とすれば、生活水準はそう変わらないと言っていい。大事なポイントなのに、この点も国民は、説明を受けていない。


小林   そうなんです。ただ、このモデルには複数の前提があって、それが正しいかどうかも議論の余地がありますから、一・四%という数が絶対正しいというつもりはありません。ここで言いたいのは、たとえ消費税率が三五%まで引き上げられたとしても、それは巡り巡って、自分たちの生活向上に役立つということです。ですから、正味の負担額はさほどでもないはずです。


橋爪   とっても重要なポイントです。良く考えてみると現実とも合っている。
スウェーデンなど北欧の福祉先進国の消費税率は二五%ぐらいで、かなり高い。そうした国の人々が幸せかどうか、アンケートで尋ねると、「幸福だ」と答える人が多い。


それは、生活が豊かだというよりも、福祉や医療サービスが行き届いていて安心できるからです。経済的な豊かさは、一人当たりGDPで測れるかもしれませんが、安心はそうはいかない。この安心が、消費税率を三五に引き上げるなら、手に入るのではないでしょうか。


小林   そうですね。おっしゃるように、社旗福祉が充実することで、将来にわたる安心感が得られるなら、それが増税による負担感を超えることも十分考えられます。


つまり、税率を上げた方が、むしろ安心感が高まって、人々ももっと前向きに生きられるようになるかもしれない。


(略)


小林   (略)いくら耳を傾けてもらえなくても、こういう本を世に問うたり、さまざまな機会を通じて訴えかけたりしていかなくてはなりません。それによって人々の意識が変わって行けば、政治家も変わる。そこまで行けば、消費税三五%も、あながち空理空論ではなくなるはずです。


橋爪   空理空論どころか、もっとも現実的な選択だと思いますよ。
消費税を三五%にすると、ある日を境に税率がぐんと上がるわけで、その前に「買いだめ」需要が急増しませんか。


(略)



小林   その意味では消費税率を三五%まで一気に引き上げることで経済活動に混乱が生じるという副作用は確かにあります。


橋爪   ただしそれは、一回だけで済むわけです。一度、三五%にしてしまえば、その後の数十年間はそのままだから、もうそうした混乱は生じない。


小林   その通りです。ただいっぽうで、もっと小さな混乱が数回起きた方が、ダメージが少なくて済むと主張する人たちもいます。この立場に立てば、消費税率を一年に一%ずつ必要なところまで上げていくことになる。しかしその場合、三〇%上げるのに三〇年もかかってしまうわけで、あまり現実的なプラントは思えません。」


〇 この後に、小林慶一郎氏の「columu 消費税率 三五%でにほんは救われるか?」が載っています。248p~253pにかけて、図が3個示され、ハンセンとイムロホログルの説が解説されています。