読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス

「あきらめる前に

小林   しかしそのいっぽうで、「ハイパーインフレは一瞬で終わって経済もすぐ復活するので、消費税増税よりもはるかに望ましい」と主張する人たちも結構いるのです。


橋爪   どこにいるんですか!?見つけ次第、ぶん殴ってやります。


小林   意外に思われるかも知れませんが、日銀にも、霞が関にも…。

橋爪   日銀にも! 霞が関にも!


小林   個人的に話を聞くと、そんなことを言う人が結構います。

橋爪   どの省庁のひとがそんなこと、言ってるんですか!

小林   財務省にも、経済産業省にもいます。


橋爪   財務省経済産業省! それは聞き捨てならない。


小林   彼らからすれば、ハイパーインフレになった方が楽なんです。
消費税率を上げるには、国会の承認を経なければならず、そのためには途方もない政治的エネルギーが必要です。とりわけ官僚はあらゆる調整をしなければならず、苦労が絶えません。それに対してハイパーインフレは突然起こるわけですから、政府にしろ日銀にしろ、「われわれにはどうしようもなかった、勝手に起きてしまった」と言って、両手を上げることができるわけです。


橋爪   ちょっと待ってください。ハイパーインフレは勝手に「起きる」のではありません。人為的に「起こされる」のです。国債を発行し過ぎ、日銀券を発行し過ぎたからそうなるのです。だからこそ、政府の当事者は、その責任を負わなければならない。


ハイパーインフレで、自殺者が五〇万人出たとすれば、彼らがその人々を殺したも同然です。
そもそも政府は、何のためにあるんですか。ハイパーインフレになるような政策しか取れないのなら、財務省経済産業省も、なくていい!


小林   だからこそ、国会できちんと議論をし、しかるべき議決を行い、消費税増税をきちんと実行しなければなりません。それこそが、役人や省庁がなすべき仕事であるというのは、全くその通りです。


橋爪   そこまで増税をやりたくないという連中は、クビにするしかないと思う。財務省の役人には職責がある。プロフェッショナルとして処遇されているわけでしょう。ならば、ハイパーインフレを防ぐためのどんな努力も、惜しんではならない。それは、日銀も経産省も同じです。


小林   おっしゃる通りです。ですが、財務省にも日銀にも経産省にも、どうしたってハイパーインフレになってしまうのだから仕方がないと、諦めてしまっている人が少なからずいるんです。



橋爪   組織にいれば、上司に理解がなくて、あきらめたくなる気持ちもわかります。でも、志を曲げてはいけない。


小林   この危機を乗り切るには、消費税率の引き上げなど、大胆な改革が必要だと、政治家を説得するにはどうすればいいのか。政治家同士がそういう議論が出来るようにするにはどうすればいいのか、頭の痛い問題です。


橋爪   財務省経産省、日銀には、重要な情報が集まっているはずです。だったら彼らも、あきらめてしまう前に、そうした情報を外に向かって発信すればいいじゃないですか。


小林   おっしゃる通りですね。なぜ、発信しないのだろう。


橋爪   それをしないで諦めている彼らが、一番悪い。


(略)


小林   彼らが情報をオープンにしない理由を、もう少し考えてみます。おそらく彼らは、ハイパーインフレが起きる確率は高いが、一%ぐらいの確率で起きないかも知れない、とそう思っている。一%の確率で近い将来に神風が吹いて、一〇%程度の高度経済成長が実現するかもしれない。


そうなれば、財政状況もかなり改善され、ハイパーインフレが起きることもないので、情報開示をする必要もない_。そんな風に考えているのではないでしょうか。


橋爪   ある人がガンにかかって、「五年以内に六〇%の確率で死にます。ただし、一%の確率で、自然治癒する可能性もあります」と医者から言われたとします。


自然治癒する可能性が一%あるからと、安心して何もせずにいる、なんてありえないでしょう。手術するとか、放射線治療を受けるとかするはずです。


ハイパーインフレもそれと同じです。一%の確率でいるん起こらないからといって、何もせずにいるなんて無責任きわまりない。すぐさまアクションを起こすべきでしょう。


小林   一〇〇年後の日本の財政がどうなっているのかを、政府は国民に対して示すべきです。そうした推計をきちんと国民に提示して初めて、消費税率は八%でいいのか、それとも三五%まで引き上げる必要があるのか、議論ができる。


橋爪   ハイパーインフレからは、誰一人逃れることはできません。どんなに賢明なひとも、愚かなひとも、ひとまとめに酷い目にあう。だったら、連帯するしかない。お互いを仲間と認め、共同行動を取らないと、この災難から逃れられません。


たとえ政府や役人が自分の責任を放棄して、あきらめかけていたとしても、国民はあきらめてはいけない。この本を読んだあなたは、運がいい。さっそくこの本を、周りのひとにすすめて下さい。ブログを書いたり、新聞に投書したり、政治家にメールを書いたり、どんな方法でもいいから、ぜひ、声を上げてほしい。


選挙を待っていたのでは間に合わないかも知れない。事態は切迫しています。国民一人ひとりに出来ることは限られていますが、それすらしないなら、ハイパーインフレで一人当たり一〇〇〇万円が消えてなくなっても仕方がない、ということです。


(略)


橋爪   子供の進学は諦めなければならない。年金も破綻する。老人が医療サービスを受けられない。主婦がパートに出ようにも、働き口がない。預金は封鎖されるか、ゼロ同然になってしまう。日用品が入手困難になる。円安で、食糧も輸入できない_。


こうならないようにすることこそ、最大の政治責任ではないのか。
私に言わせれば、三五%の消費税とハイパーインフレのどちらがいいかなんて、議論するまでもありません。


(略)


橋爪   消費税が三五%になるとは、どういうことか。
妻と子供二人の勤労者世帯_かりに年収四〇〇万円としましょう_が、どれくらいの税金を余分に払うことになるのか。


消費税率はいま八%ですから、二七%ぶんの増税となります。そうするとおよそ、四〇〇万円×二七%=一〇八万円、最大でこれだけ負担が重くなる。


それに対して、ハイパーインフレになったら、どうなるか。日本人一人当たり、一二〇〇万円の預貯金があると言われています。四人家族なら、計四八〇〇万円。


ハイパーインフレで一人当たり一〇〇〇万円が失われるとすれば、四人家族で四〇〇〇万円の預貯金が、またたく間に失われてしまう。家族で四八〇〇万円の預貯金が、八〇〇万円に激減してしまうわけです。



またたく間に四〇〇〇万円がなくなってしまうのと、毎年一〇八万円を五〇年間にわたって払い続けるのと、どちらがいいか。この五〇年の間、医療保険や年金、子どもの教育といった公共サービスは、これまでと同じように受けられる。会社も職もある。



クライシス回避のポイント


1  毎年の財政収支を約七〇兆円、改善する必要がある。これは、消費税率を三五%に引き上げるということ。

2  消費税率アップにあわせて、低所得者の救済措置を講じる。

3  消費税率三五%のコストは意外に小さい。増税分が、社会保障などで還元されるからである。


4  ハイパーインフレは、消費税増税よりも社会的コストがはるかに大きい。

5  増税をためらう官僚や政治家に、国民は財政再建を求めなければならない。」


〇 今も日銀は国債を買い、株を買い、好景気を演出しています。
これをいつまで続けるのか。続けることで、何かが好転するのか。
永遠に続けられるのか。続けられなくなった時、日本はどうなるのか。