読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス(3 まだ間に合う!)

〇 と言っても、この本が出されたのは、2014年です。今はまた事情が違っていると思います。

「年金改革の基本軸

橋爪   さて、とは言っても、三五%の消費税は重い。小林先生は、歳出を徹底的に見直して、カットするいっぽう、消費税も少しだけ軽めに増税する、合わせ技のプランもお持ちでしたね。詳しくお聞きしたいです。


小林   年金の給付を一律でカットしすぎると、所得や資産が少ない人は生活が立ち行かなくなってしまう。ですからこれは望ましくありません。では、どうすればいいのか。


所得の多い人たち、あるいは資産を多く持っている人たちの年金給付額を減らす一方で、所得や資産の少ない高齢者に手厚い年金制度を作る。これがもっとも合理的で正しいやり方ではないでしょうか。


その際、いちばんのネックとなるのが、社会保障に関する、ある基本思想です。それによって、所得や資産を多く持つ人から低所得者層への再配分が非常にやりにくくなっている。



橋爪   どんな思想ですか。


小林   たとえば年金であれば、これまで支払った保険料の総額に応じて支払われるべきだという考え方です。この場合、現役時代に所得の高かった人は、保険料をそれだけ多く支払ったのだから、年金もそれに応じて多く支給されるべきだということになる。


逆に現役時代に所得の少なかった人は、保険料もあまり支払っていないので、受給額が少なくなっても仕方がない、となってしまう。そこでは豊かな人がますます豊かになり、そうでない人はますます貧しくなってしまうわけです。



それに対して私は、年金の一階部分に相当する基礎年金(国民年金)では低所得者層に手厚く支給すべきで、これは、保険ではなく再配分政策であるという、発想の転換が必要だと考えています。


この場合も、年金の二階部分である厚生年金については、所得に応じた保険契約という性格を維持することになります。


橋爪   年金に対する信頼が揺らいでいます。でも私は、年金の制度を擁護したい。
年金には二つの利点があります。
ひとつは、安心の創出です。これを、大勢の人々が共同で行う。年金がなければ、仕事を辞めた後の生活費は、自分で貯金しておかなくてはなりません。そうすると、貯金し過ぎになります。


自分がいつまで生きるか、わからないから。一〇〇歳まで生きたらどうしようと、必要経費を多めに見積もってしまうのです。誰もが同じように考えるので、社会全体として、過剰貯蓄になってしまう。年金制度があれば、いくら長生きしようが、生きているかぎり、所得が保証される。



早く亡くなった人への支給は打ち切られるので、全体経費が安くて済む。このように、大勢の人々が加入する年金は、合理性が高い。しかも、企業も保険料を拠出するので、個人の負担はなお少なくて済む。とてもよい仕組みだと思います。


もうひとつは、再分配です。現役時代に所得の高かった人と、そうでない人がいます。年金の一階部分に当たる、基礎年金の保険料は、所得に比例して負担すべきでしょう。いっぽう受け取る年金は生活費で、基礎年金では一律、同額の給付が受け取れるようにする。そうすると、再分配の硬貨が働くのは、小林先生のご指摘の通りです。



アリとキリギリスではないかと、再分配に反対する考えもあります。ギャンブルに明け暮れ貯金もしなかった人が、年金を受け取る段になって、手厚く扱われる。こつこつ働き、相当の貯金をした人が、資産があるという理由で、給付が少なくなる。


これは社会正義に反するのではないか。そこで、年金を二階建てにし、二階部分では、所得の額に応じた保険料を支払い、支払いに応じた年金が受給されるやり方が良い。


まとめるなら、再分配の論理と、アリとキリギリスの論理をミックスさせたやり方が、もっとも合理的だと思います。


年金問題の根幹は、この基本的な考えが国民に理解されずにいること。そして、年金の積立金が底をつきかけていることです。


小林   公的年金基金はまだ一二〇兆円くらいはあります。ただ、少子高齢化によって、これが急速に減っていき、いずれ底をついてしまうのは間違いありません。



もう一つ、検討すべき重大な問題があります。(略)
支払った保険料を市場で運用して得られる金額と同額の年金がもらえるようなフェアな設計になっていれば、政府が運営しなければならない理由はありません。


(略)


小林   人口減少社会においては、仕送りという原理が組み込まれた公的年金制度は廃止したほうがいい。年金保険は、強制加入にした上で、民間の保険会社に任せるいです。アメリカのオバマケアでは、民間の保険に強制加入となっていますが、これと同じような仕組みを導入する。


そこでは一人一人が年金口座を作り、自分が積み立てた保険料は保険会社に運用してもらい、仕事をリタイアした老後に年金として支払ってもらう。積み立てるといっても、純然たる貯蓄ではありません。



あくまで保険ですから、長生きした分のリスクは同年代同士でやり繰りしていく。つまり、早く亡くなった人が払い込んだ保険料を、予想外に長生きする人の年金給付の財源に回す、ということになります。


これを積み立て方式と言いますが、人口減少社会では、これがもっとも合理的だと思います。
これまで日本では、現役世代からお金を徴収して高齢者に渡すという、賦課方式を取ってきました。この方式から積み立て方式へと転換すべきです。



橋爪   (略)切り替えまでの世代は、保険料を、上の世代を支えるためにはらってきた。それが切り替わったとたんに、自分の保険料を積み立てなさいと言う原則になる。どう考えてもダブルパンチです。



小林   ダブルパンチのうち、片方は政府が面倒を見なければなりません。具体的には国債を発行することになるでしょう。その分は、将来世代が薄く分担していく。



あるいは、上の世代の分と自分の分を負担するのは大変なので、上の世代の分は国債を発行することでまかなうことにし、将来世代に薄く負担してもらい、自分の分は積み立てでまかなうというアイディアを、小黒一正さんをはじめ、何人かの経済学者が提唱しています(たとえば小黒一正著「2020年、日本が破綻する日」日経プレミアシリーズ)。


(略)」