読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス

「財政版「中央銀行

橋爪   さて、消費税率三五%の、本筋に戻りましょう。
本書の提案を進めるには、消費税率三五%を、最低でも五〇年間は維持しなくてはなりません。それには政府が政権交代にもかかわらずに一貫した姿勢をもち、世代を超えて、国民の共通了解のもとに行動しなければならない。(略)


でも、有権者は、三〇年も経てば、すっかり世代交代していく。そんななか、一〇〇年以上にもわたって政策プランを維持していくなんて、できるのか。どんな仕組みを用意すればよいのでしょうか。



小林   世代を超えて、国民的な合意を持続させるのは非常に難しいことです。けれども、専門家集団であれば、一〇〇年、二〇〇年と、基礎的な認識を持ち続けることが可能です。


だとすれば、財政問題についての専門家集団を養成し、日銀のような独立性を持たせて、長期間にわたってその認識が持続するようにする、という方策が考えられます。


橋爪   具体的には?


小林   金融政策分野における中央銀行のような存在を、財政分野にも作るといういめーいです。中央銀行は政治家や国民から独立した機関として、金融市場を管理しています。


彼らは長期的な視野に立ち、専門家としての立場から、市場や経済の安定にとって最適な政策を行っています。政治家はそれに干渉できませんし、選挙等で有権者からその是非がとわれることもない。その財政版を作るんです。



実際、ヨーロッパでは財政学者が先頭に立って、そうした組織を作ろうとする動きが出てきています。ただ、財政と言うのは政治の根本ですから、その財政を政治から独立させるのは、民主主義に反すると言われかねない。ですから相当、慎重にやらなければなりません。


財政の何を、政治から独立させるかと言えば、長期予測です。
先ほど述べた通り、日本政府は一〇年くらい先までしか財政予測をだしていません。
一〇〇年先の予測も計算できると思いますが、いま計算すると「かならず財政破綻する」という予測結果が出てくるので、政治的な責任を追及されるのを恐れて、表に出せないのです。


さらに、内閣府財務省厚生労働省などがバラバラに自分に都合のいい仮定を置いて予測結果を発表したりしていて、政府全体で統一がとれていない。


そこで、政治的な責任とは無関係な専門家集団を作って、五〇年先、一〇〇年先の長期予測をしてもらう。政治家の意向に左右されず、自らの良心と専門知に基づいて、財政と経済の将来予測を立ててもらうのです。


長期の財政予測であれば、「財政は政治が決める」という民主主義の原則から逸脱せずに済むはずです。そして政治家や官僚は、専門家集団が出した長期予測を尊重しなければなりません。国会でも、この長期予測に基づきながら、国債を発行し過ぎて財政破綻を招いたりしないよう、予算を決めていく。そういう仕組みを財政分野に作る。これが、いま考えられる最善の政策です。



橋詰   うーむ。
似たような仕組みは、よその国にありますか。



小林   イギリスやオーストラリア、ニュージーランドデンマークといった国で、独立性が保証された機関が議会あるいは政府内に設置されています。(略)



橋詰   問題は、財政版「中央銀行」にあたる専門家集団が、日本で、それと同じことが出来るかですね。
財政と少し似た分野に、地球環境があります。イギリスは二〇〇八年に「気候変動法」を成立させました。(略)


地球環境分野なら、覚悟すればそこまでできる。炭酸ガスの削減は国際的な問題です。それに対して財政分野は、先ほどのお話のように、一国の問題で、もともと議会の権限なので、もう少しハードルが高いのではないか。


小林   たしかにそれは容易ではありません。選挙で選ばれた国会が税を決めるということが、民主制の根本ですので、税や予算を決定する権限を国会から切り離すことはできません。ただ、国会が税や予算を決める時に、財政をめぐる長期予測があった方がいいとおもうのです。専門家集団はそのためのものです。(略)」

〇 ここで、思い浮かんだのは「原子力規制委員会」のことです。政権に都合の良いメンバーが揃えば、「火山も活断層も社会通念上危険とは言えない」と言って、再稼働を許可します。メンバー次第で、どうにでもなってしまうのが、日本の組織です。


「(つづき)その際、この制度の成否を決める重要なポイントとなるのが、自らを拘束するような法律を機会がつくれるかどうか、ということです。


橋詰   まず、国会での徹底した討論が必要ですね。(略)
第二に、超党派の合意が必要です。(略)
第三に、国会で超党派の合意ができたら、財政版「中央銀行」が定めたその年度の国債額の上限を超える支出を財務省はしてはならないという法律を定める。これで、国債の発行残高をコントロールする。予算ではなく、国債の発行残高に上限を設けるやり方が分かりやすいでしょう。


小林   繰り返しになってしまいますが、一番難しいのは議会による自己拘束です。第Ⅰ部でも述べたように、赤字国債の発行は本来、日本では禁じられています。にもかかわらず、毎年法律を制定して、原則に反する赤字国債を出し続けている。これが日本の政治状況です。



(略)



小林   財政版「中央銀行」のよいところは、情報をオープンにできるということです。政府の意向に左右されず、長期予測をしっかり立てて、国会や国民に示すことができる。予算案が、財政版「中央銀行」の答申と矛盾するような場合、国会は国民に対して納得のいく説明をしなければなりません。


そうなれば、一部の政治家が怪しい予算案を次々と積み上げるようなことはなくなるはずです。


橋爪   政治の横ヤリは、本当に心配です。福祉を切り捨てるな、増税に断固反対だ、みたいな少数政党が連立に加わり、ダダをこねて、せっかくの超党派の合意を突き崩してしまう、みたいなケースです。


(略)



橋爪   もう一つの手段は、国債の圧縮を、国際公約か、条約みたいなかたちで、対外的に約束してしまうことですね、いっそのこと。幕末から半世紀近く、日本は条約改正のために頑張った。それを参考にすると、明確な対外公約があれば、国内政治の力学に邪魔されず一貫した政策がとれるのではないか。」