読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

ジャパン・クライシス

「自己統治への道

小林   これからの日本にとっても、自治の回復はきわめて重要な課題です。日本の民主主義はこれまで「上からの民主主義」でした。政府と国民の関係を考えても、政府と言う「お上」の意向が優先されてきた。



江戸時代以降の日本人は、自分たちとは異なる向こう側の存在として、お上を意識して来たのではないでしょうか。一〇〇〇兆円にも上る借金が政府にあるというのに、国民がそれを「自分の借金である」と思わずにすませている根本的な理由もそこにあると思うのです。



自分たちのことは自分たちで統治するという作法が根付いていれば、国民は自国の財政状況にもっと関心を持つはずですし、政府に対して、長期的な見通しをきちんと出すよう要求するはずです。そう考えると、日本人の統治意識を変えることが、どうしても必要です。それこそ、町内会といった身近なところから、自治を回復しなければなりません。


中央政府も、これまで保持してきた数々の権限を、地方自治体へどんどん委譲していく。住民自治でできることは、どんなことであれ、自分たちでやる。それによって初めてボトムアップ自治に依拠した民主主義社会へと近づいていける。今回の財政危機を契機にそこまで出来なければ、一〇〇年も経たないうちに、再び、同じような問題に直面することになってしまうのではないでしょうか。


橋爪   その通りだと思います。
少し別の角度から話をしてみます。日本人にとっての自治ということです。
自治に対する日本人の原体験は、江戸時代の農村にあると思います。当時のムラには移動の自由がなく、一生、そこで過ごさなければならなかった。まさに運命共同体でした。


この運美恵共同体の構成員が、外からの介入を排除して、幸せになるにはどうすればいいおか。それを考えるのが、日本流の自治でした。ムラならムラの構成員が、自分たちのルールを作っていた。法律があっても、それがムラに及ぶことを人々は恐れました。


国の法律より、ムラのルールを優先する。これが、日本の組織文化の土台となっている。
その結果、所属集団ごとにルールを作って、相手を縛り、自分を縛るのが習慣になりました。たとえば、学校には校則がある。企業も同じです。私の勤務先の大学人も、大学が決めたルールがあり、教授会が決めたルール、事務の人々が決めたルールがあって、相手を縛り、自分を縛っていく。どうやら日本人は、こういうやり方を自治だと理解しているようです。



小林   興味深いお話です。



橋爪   これが外国なら、学校は、法律を教えます。市民法をほぼそのまま、学校に適用する。あなたたちが従うルールは市民社会のルールです、と教えているわけです。


自分が従うルールと、社会や国家の法律が同じでなければ、社会や国家について発言できません。日本人には政府を運営する習慣がないのです。


小林   日本人には政府を運営する習慣がないというご指摘、同感です。そのためには、地方分権を進めて、住民自治を徹底するだけでは足りず、それとは別の手立てが必要だということですね。


橋爪   地方分権の推進には大賛成です。そのとき大事なのは、財政も分権することです。道路を作るかどうかも、自分たちで決めていく。中央の補助金に頼っていてはダメです。


小林   そうですね、まずは財政分権から始める。


橋爪   江戸時代の村の自治の問題点は、ムラの外に武士がいて、年貢の使い方は武士が決めていたということだった。


小林   上からルールを押し付けられて、自分たちが収めた年貢の使い道について、自分たちで決められなかった。


橋爪   ムラの自治の限界を、武士が補っていたが、いまや武士たちはどこかへ行ってしまい、ムラの習慣だけが残っている。



小林   自分たちで税金を醵出し、その使い道も自分たちで決めていくという練習を、一刻も早く始めなくてはなりません。


橋爪   そうです。ムラのルールと、社会や国家が分離している状況を解消しなければなりません。それが、日本の民主主義の根本課題です。日本の財政がこんな状態にているということは、江戸時代になぞらえるなら、年貢がどう使われているかがわからないということです。


小林   まさにその通りです。税金の使い道を、自分たちで決めてこなかったツケが、こういう形で現れている。


橋爪   国債の発行残高を減らすということは、年貢を減らすみたいなことです。国民からすれば、賛成!とならなければならない。


小林   自分たちのことは自分たちで決める。そうした自己統治をまずは体験することが必要だと痛感しました。


橋爪   おっしゃる通りです。ようやく出口が見えました。


クライシス回避のポイント


1  消費税率を三五%より低く抑える場合は、年金制度や高齢者医療をいっそう踏み込んで改革し、歳出を切り詰める必要がある。

2  長期にわたる財政再建に責任をもつ、専門家からなる財政版「中央銀行」を、創設するべきである。


3  日本国民は、自分たちが払った税金の使い道を自分たちで決める、自己統治を身につけるべきだ。」



〇 ここを読みながら、「私は女性にしか期待しない」を思い出していました。松田道雄さんは、繰り返し、学校で民主主義が教えられているかが問題だ、と言っていました。それぞれの子供の基本的人権が大事にされているか。それぞれの子供の「言論の自由」と「表現の自由」が尊重されているか。

そして、なによりも、ここで小林・橋爪両氏が言っている、自治統治の能力が培われているか。

文句を言わず、先生の言うことに従い、疑問があっても胸にしまい、ひたすら言われた通りにする…。
そうしなければ、面倒くさいことになる。私自身が子供だった時も、自分の子供を育てていた時も、そうでした。

幼稚園から高校までそんな風に育った子が、自分の意見を言いみんなと協力して自治の精神で共同体作りに参加できるようになるでしょうか。

とはいえ、子どもには自由と同時にしっかりした規範も必要です。
その規範がないので、押し付けていうことを聞かせるしかないんだろうな、
と思います。

民主主義はキリスト教という土台の上に成り立っている、とあらためて考えてしまいます。