読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

一下級将校の見た帝国陸軍(組織と自殺)

「いきなり逆に伏せたので、私の前の溝に四人の兵士が一列に伏せている形になっている。私はすぐ前のS上等兵に行った。「右へ匍伏し、河岸に出て、砲車の位置まで突っ走れ」
彼はうなずくと順々に前の者に逓伝した。ベテランの四人はすぐ指示を理解し、溝を這い出し、静かに徐々に右へ右へと匍伏前進をした。



敵はすぐ目の前だが、かえって気づかぬものらしい。そのとき、ドーンという発射音がした。「砲兵が来てやがる」と思った瞬間、シュルーッという弾道音が頭上でした。砲弾の速度と音速とはほぼ同じだから、発射音が聞こえた時に生きていれば、大体、至近弾ではない。



「どこを射ちやがる」と思って後ろを振り返ると、照明弾であった。(略)




夜になると、彼らは必ず安全な位置に下がり、最前線に候敵器、第二線に赤外線遮断装置をおく。候敵器は精巧な集音マイクロフォンで、しのびよる斬り込み隊をまず音で捕らえて大体の位置を知り、赤外線遮断装置にかかったところで集中射をあびせる。


だが装置には必ず盲点があるもので、われわれのように、背後からそれと知らずつい入り込んでしまったものは、目の前にいても逆に気づかない。彼らがいつまでも射撃をやめなかったのは、候敵器について教育をうけなかった老招集兵が、射弾と火事の中で方向を失い、候敵器の付近を無我夢中で逃げ回っていたからであろう。(略)



ビダグの隘路に逃げ込んで屈辱の座につくつもりはないから、ここに砲弾が雨注するのはかまわない。が、パラナン川への出口と河岸の通過を封じられると、脱出路をなくして袋のネズミになってしまう。敵の盲点に入って、いまは一応安全とはいえ、いずれ近寄って来る火事の火光から完全に遮断された位置ではないし、多少移動して隠れても夜が明ければおしまいである。



確かに理屈はそうで、それはわかっているのだが、人間は不思議なもので、完全に闇に包まれ、恐怖の対象が見えず、「いま」これで安全だとその位置を動けなくなる。奇妙な落着きとも諦めとも言えるような、また何かの理由で情勢がそのまま好転するのを期待しているような、妙な気持ちになり、じたばたせずに、そこにじっとしていた方がいいような気もちになる。



それでいて、内心のどこかで、それがダメなことは知っている。」


〇この状況と今の日本の置かれている「ジャパン・クライシス」で説明されていた状況とが、同じだと感じました。

このままではダメだとわかっている。でも、とりあえず「いま」なんとかなっていると動けない。

「クライシス回避のポイント


1  毎年の財政収支を約七〇兆円、改善する必要がある。これは、消費税率を三五%に引き上げるということ。

2  消費税率アップにあわせて、低所得者の救済措置を講じる。

3  消費税率三五%のコストは意外に小さい。増税分が、社会保障などで還元されるからである。


4  ハイパーインフレは、消費税増税よりも社会的コストがはるかに大きい。

5  増税をためらう官僚や政治家に、国民は財政再建を求めなければならない。」