「裁判における被告人の権利
(略)
日本人の感覚だと、裁判を受けるのは懲罰にも等しいような恥辱だから、そんなものは権利とはとても思えないわけです。でもこれはリンチなど、法が適用されない事態を防ぐために、裁判を受けない限り有罪にはならないと定めて、被告を保護しているのです。
公害裁判がありますね。(略)
そうすると市民は怒って、「公害企業は、控訴を取り消せ!」とか、「公害企業のくせに反省がたりない!」とか、そういう意見が出てきます。
しかし、これはおかしい。日本は三審制を取っていて、裁判に不服があれば、何人といえども控訴したり上告したりして、上級裁判所の判断を仰ぐ権利があるのです。(略)
日ごろ、さんざん憲法を守れと言っている新聞が、公害企業の上訴権を否定するような論調に与したら、これはいけない。(略)
罪刑法定主義について
日本ではそれなりに罪刑法定主義が徹底しているのではないかと思っている人もいるようですが、私はちっとも徹底していないのではないかと考えています。たとえば「毒入りカレー事件」の林真須美容疑者ですが、あれはほとんど状況証拠ですね。(略)
さらに重要な事件は、オウムの麻原彰晃氏をめぐる事件ですけれども、これも、直接証拠というものはなく、全部情況証拠です。罪刑法定主義を徹底するならば、良い弁護士がつけば、無罪になってしかるべき事件である、と私は思っているのです。
麻原はけしからんしオウムはけしからんと思いますけれども、それ以上に、民主主義を守らなくてはいけないという原則から考えると、このまま麻原が有罪になるというのは、日本の民主主義にとって、あまり良くないことなのではないか、と個人的には思っています。(略)
2 契約自由の原則
民法と裁判所の役割
市民社会では、誰もが誰とでも、どのような契約も結ぶことができて、法はこれを保護する。
いわば、契約が法律になる。
これは、われわれの自由の大原則です。自由意志で、どんなことをしてもいい。ただ、一定の制限があって、奴隷的契約とか、公序良俗に反する契約とか、そういうものは法律の保護を受けられません。(略)
もう少し極端な例を出せば、近親相姦。生き別れになった兄妹が偶然出会って気が合って、お互いに兄妹だと知らないで結婚生活を始め、あとでよく調べてみたら兄妹だった。こういう場合を考えてみると、これを法律は処罰するだろうか。
民法には処罰規定はありません。法律上結婚とは認められませんから、法律上の保護は与えませんよと言っているだけであって、そういう事態になってしまった場合、当事者がどうやって生きていくかは、当事者の勝手です。国はこれに干渉しないのですね。(略)
裁判というのは、個人間の紛争を法律によって解決するための公的サービスである。(略)
これは、近代社会が私たちに提供している、私たちが幸福を追求するための、非常に重要な手段です。それはいずれも法律と、深く結びついています。そしてこういう法律の体系のうえに、資本主義経済と市民社会が成り立っているのです。
3 憲法
憲法とは政府へ宛てた手紙である
次は、憲法についてお話ししましょう。
明治憲法(大日本帝国憲法)はあまりにも素晴らしいので、「金甌無欠」といって、どこから見ても欠点がないから変える必要がないということで、変えることができませんでした。その感覚がそのまま生きているから、日本国憲法も変えることができないと思われているのです。
つまり、戦前と戦後が、そうやって連続しているわけです。(略)
皆さんは、憲法に違反することはできるでしょうか。(略)
実は、憲法と無関係に暮らしている、というのは正しい態度なのです。
どういうことか説明してみましょう。
憲法とは、なんのためのものか。人民がいて、自分たちがひとつの政治的団体(国民国家)として存在していくために、政府が必要だと思った。ここで政府とは、行政府う狭い意味ではなく、立法・行政・司法の全部の権力を含むものと考えて下さい。
日本の言い方だと国家ですが、国家というと人民も含まれてしまいます。人民が作り出した、人民のために存在する組織が政府です。
政府は権力、権限を持っていますから、人民に対して、いろいろなことを要求します。税金を払え。これが一番大きいですね。それから、兵隊として戦争に行け。法律を守れ。そういう要求をします。それによって、人民の自由がある程度制限されます。もちろん、自由が守られる面もあります。
政府は大きな権力を持ちますが、これだけだと、ただの専制国家です。そこで民主主義は、憲法を必要とする。政府が、勝手に人民の利益を損なわないように、憲法という約束を定めて政府に守らせる。こういう役割のものなのです。
憲法は手紙のようなもので、そのあて先は政府です。
「政府殿。人民の名において、これこれのことを要求します。この憲法に従って行動しないと、政府とは認めませんよ。人民より」。
こういうものなのです。
今すぐにでも、辞任してもらいたい。
民主主義や近代法について、全然理解していないということが明らか。