読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

人間にとって法とは何か

「 第Ⅱ部  法の歴史 ―古代宗教と法

第4章 ユダヤ教と法

1 神との契約

なぜ「神との契約=法」なのか

前章の最後のところで、憲法について話ししました。
この憲法の考え方は、どこからきたか。アジアにはありません。インドにも、アラビアにもありません。元をたどるとキリスト教文明なのですが、キリスト教文明をさらにたどると、ユダヤ教に行き着く。


ユダヤ教が、今から三千年くらい前に憲法の考え方を発明しました。ユダヤ教の考え方が流れ流れて、近代法の、憲法の考え方になりました。そういう意味を含めて、ユダヤ法が、法律と社会のあり方に関してひとつの典型になっていると思うので、それを簡単にお話ししましょう。(略)




ユダヤ民族、人民がいます。神がいます。ユダヤ教一神教で、その神をエホバとかヤハウェとかよびますが、唯一の神である。そしてこの神が、ユダヤ民族を選んだ。


「私と契約を結ぶと、いいことがある。私は責任をもって、あなたたちを守ってあげます。そしてこの契約を守れば、あなたたちは栄えるでしょう。この契約を守らなければ、あなたたちは破滅しますよ」。
そういうふうなメッセージを伝えた。いわば脅迫です。(略)



ユダヤ教では、契約が宗教そのものです。そして、契約が法律そのものなのです。すなわち、宗教=契約=法律、という等式が成り立つ。(略)



憲法のアイデアと「神との契約」の類似性

神との契約という考え方の発想の元をたどっていくと、これはユダヤ人の独創というよりも、古代オリエントの慣行に行き着くかもしれない。
古代オリエントには、バビロニアアッシリアなどの大きな帝国ができあがって、その下にさまざまな民族の都市国家を従えていた。そして、それら都市国家との間に、「宗主権契約」なるものを結びました。



この契約の内容は、戦争になったら宗主国に軍隊を提供する。ふだんは税金を納める。そのかわりに宗主国は、独立を保障し、保護を与える。なんか日米安保条約とよく似ていますが、こういう契約でした。古代ではこういう外交条約はわりと普遍的で、たいていの都市国家は、どこか大きな帝国と契約を結んでいたわけです。



ところが、ユダヤ人は民族主義的ですから、エジプトとかバビロニアとか、よその民族の帝国と、そういう契約を結ぶのはどうしてもプライドが許さなかった。そこで民族自立のため、ユダヤ人だけを守ってくれる架空の存在、唯一神を考えて、その神様と契約を結ぶことにしたのです。



喩えてみれば、古代の日本が、朝鮮、中国に攻められて、同盟関係を結ぶ相手もいないので、アマテラスオオミカミと契約を結んで、外敵が攻めて来たら、神風を吹かせたりして守ってくれる、そのかわりにアマテラスだけを信仰する、と約束するようなもの。それで安心する、こういう考え方です。



トルコのどこかを発掘したら、ヒッタイト王国の古文書が出て来た。解読して見ると、宗主権契約の文書で、その文章のスタイルや内容が、ヤハウェとの契約とそっくりだった。ここからみると、神との契約というユダヤ教のアイデアは、古代オリエントの国際慣行を真似たものだったと考えられるのです。


この考え方で、神様をなしにしてしまうと、それが憲法です。神様の代わりに、自分たちの代表である、人間がつくっている政府を置く。政府に対しては絶対的服従ではなく、条件的服従になります。



政府は神と同じように、絶対的な存在であるけれども、憲法をあいだにはさみ、政府が憲法を守る限り、という条件付きで、服従するわけです。アイデアとしては、非常によく似ている。」