読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

人間にとって法とは何か

〇 第6章はイスラム教とイスラム法となっています。
関心がないわけではないのですが、とりあえず、私たちの身近なものではないので、大幅に省略してメモします。

「第6章 イスラム教とイスラム法


イスラム教は、ユダヤ教にそっくりです。
強いて違うところを挙げますと、ユダヤ教ユダヤ民族の歴史とともに、だんだん出来上がっていったので、聖典が、ムハンマドが啓示を受けた「クルアーンコーラン)」のように一冊になっていなくて、何冊にもなっている。いろんな人がいろんなときに啓示を受けた書物が、だんだん積み重なって合わさって出来たものです。




聖典がこういう具合なので、さまざまな考えが盛り込まれており、混乱しているといえば混乱しています。文学的な部分もあれば、法律的な部分もあり、著者もまちまちです。(略)




クルアーンコーラン)」とはどんなものか

(略)

まず「クルアーンコーラン)」という聖典が、法律の源泉、法源になります。ユダヤ教もそうでしたが、宗教が即、法律であるという点が、日本人の想像を超えています。(略)

神の著作物ですから。その啓示を受けたムハンマドが、最後で最大の預言者であり、神の使徒である。このように信じられているので、今後、預言者が出てくるということはありえない。(略)



この法律は、神が人間のためにこしらえた完璧なものなので、次のように考えられます。
人間のありとあらゆる行為を考えると、この行為はイスラム教の教えからして正しい行為、あの行為はイスラム教の教えからして間違った行為、というふうに、完全に判断ができる。数学の関数のようなものです。正しいか間違っているか、一義的に決まる。灰色もないし、正しくも間違いでもないということもありません。(略)



人間の義務は、正しい行為をすること、間違った行為はしないことである。これが宗教なのです。


たとえば豚肉を食べる。ダメです。アルコールを飲む。ダメです。
いっぽう、やらなくてはならないこともあります。(略)
しなくていい場合も、すべて決まっています。(略)



こんなふうにいろいろ免除規定もあるわけですが、とにかく、やってはいけないこととやらなくてはならないことが、みんな決まっています。




違反と誤診と「二重の幸福論」

違反するとどうなるかというと、法律に従って処罰されます。神様が出て来て裁判をするかと言うと、神様は出て来ない。人間が代わって行うわけです。最初はムハンマドが行っていましたが、ムハンマドも死んでしまったので、法律に詳しい法学者が行う。(略)





イスラム社会ではイスラム法に詳しい法学者を養成しなければならない、という要請がとても強いので、法学者を養成するための期間が必要になる。世界で最初に大学を打ったのはイスラム教徒です。そえは法学者を養成する必要があったからですね。これを真似してヨーロッパにも、だんだん大学が作られるようになった。


でに誤審は避けがたい。間違った判決を受けたら、どうすればいいのか。ムスリムイスラム教徒)はこんなふうに考えているみたいです。



神アラーは人類のためを思って、地上で安楽に暮らせるように、そして将来、最後の審判のあと、天国で安楽に暮らせるように、考えて下さった。(略)


もし間違った判決が下されて、地上で安楽に暮らせるはずが、不幸になってしまった人の場合、天国に入るのにボーナスポイントがあるので、心配しないで。_こういうふうに考えているみたいなんです。
これを「二重の幸福論」といいます。地上でも幸福、天国でも幸福。誤差込みで、システムが出来上がっている。(略)




その他の法源_法学者の判断が新しい法源になっていく

イスラム法源ですけれども、「クルアーン」のほかに、それを補う法源がいくつかあります。
二番目の法源はスンナといいますが、これは、ムハンマドが裁判などをするときに、こういうふうに言った、こういうふうに行動した、という記録が残っていて_最初は文字奥ではなく、伝承だったのですけれども_これをまとめたものです。



そのスンナから、スンニー派という具ルームの名前がとられています。
三番目に、イジュマーというものがあります。「クルアーン」にも書いていないし、スンナにも定めのない、新しい事態が発生してしまった。こういう時には法学者が相談をして、全員一致の結論が得られれば、それえを法律に付け加えてしまうというやり方です。(略)



少し前、インドネシアの味の素の工場で、豚の遺伝子を使った触媒を用いて味の素を製造していた、ということが明らかになった。豚の遺伝子を食べさせたらたぶんまずいと思いますが、触媒に使うだけだったら、最終生産物ではなくて、途中で使っているだけですから、大丈夫なような気もするし、判断が難しいと思いませんか。




私が味の素の社長さんだったら、まずインドネシアの高名な法学者をコンサルタントに雇って必ず相談します。それでOKという判断がでたら、国中で文句をいう人はいないはずです。(略)




四番目の法源はキヤースといいますが、これは三段論法のことです。(略)
ところで、ナツメヤシ酒にもアルコールが入っていて、同じ作用が起こるので、これも禁止されていると考えるべきだ。これは三段論法ですね。こういうふうに推論して法判断を下すのです。(略)」