読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

人間にとって法とは何か

「第7章 仏教と法

1 サンガのルール

サンガと戒

仏教は、インドに生まれた宗教ですが、出家という考え方をとっていることが、根本的です。
ここから、仏教独特のルール観、法律観が出てきます。
出家が可能であるためには、社会のルールと、出家した人々との集団のルールがあって、両者が一致していない。これが絶対に必要な条件ですね。


仏教の聖典をみると、在家者はこういうことを守りなさい、というルールがありますが、とても簡単で、わずか五つです(五戒)。


殺生会、偸盗戒、邪淫戒、妄語戒、飲酒戒。
在家の仏教徒はお酒も飲んでいるし、嘘もつきまくっているじゃないか、ということもあるかもしれないですけれど、在家の人にとってこれは法律ではなく、努力目標です。なるべく守りましょう、ということなのです。(略)


いっぽう、出家者は、社会と分離していなくてはならない。出家者のルールはたいへん厳格です。違反は、厳格に問題とされる。出家者の戒律は、具足戒とよばれますが、それが二百五十戒あります。具足とは、完全という意味です。女性の出家者の場合は戒が増えて、三百四十八戒になります。



この戒律は誰が決めたかというと、釈尊が決めたことになっている。お釈迦様が決めたわけですから、変えることが出来ない。変えてもいいのですけれども、そうすると仏教ではなくなってしまう。釈尊の決めたルールに従って修行するのが、仏教だからです。



サンガの特徴

仏教の出家修行者の集まりを、サンガ(僧伽)といいます。
このサンガのルールのあり方が、世俗社会とたいへんに違っていること、ここに仏教の特徴があります。サンガは、自発的に修業する対等な出家者たちの形成する、ギルドである。


ギルドというのは中世ヨーロッパの言い方ですが、要するに、対等なメンバーの組合のようなもので、内部に上下関係、ヒエラルキーを持たないのです。いったん加入を許された以上は、全員が対等である。そしてサンガの場合は、全員一致が原則である。そうやって運営されています。




嫌なことを誰かにされる、させる、ということがあり得ない組織になっています。すべて自発的です。



これに類する集団は、何があるでしょうか。村の寄り合い_これには親分格の人がいますね。ヤクザも上下関係はあるし。子どものグループもガキ大将とかいますね。まったく対等なメンバーの集まりと言えば、大学の教授会なんかはわりと近いかもしれない。



仏教の自発性を重んじる点が、キリスト教と違うところです。一神教だと、神に背いている人間を見つけたら、無理矢理にでも強制して、神の道に戻すのが正しいとされているから、強制にも意味がある。


仏教は自発的に行動しないと意味がない(修行にならない)わけですから、強制はありません。そして世俗の社会ルール(刑法)は、いっさいサンガのなかには及ばない。そのように、自治が認められている。こういうものがインドにあったのです。」