読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

わたしを離さないで

〇 カズオ・イシグロ著 「わたしを離さないで」を読みました。

日の名残り」を読み「忘れられた巨人」を読み、これで三作めです。
正直言うと、読むのが気が重く、出来れば他のものを先に読もう、と思っていました。その気の重さは、あの「苦海浄土」に対する重さと同じものです。


でも、先日、ネットで朝日新聞が「平成の30冊」というものを発表したというのを見て、やっぱり頑張って読んでみようと思い直しました。

1位「1Q84] 2位「わたしを離さないで」3位「告白」です。

最初から、気が重くなるような内容の本だと知っていたのですが、それにも関わらず、「その部分」ではなく、それとは違う「人間としての部分」に大きな吸引力がありました。だからこそ、読んでいてやっぱり今回もすぐに話に引き込まれて行きました。

トニーとキャスとルースの関係が、微妙な力関係で繋がっていて、身につまされました。反発や軽蔑や嫌悪や、それにも関わらず惹かれる気持ちや愛着や信頼や嫌われることへの恐れ等、関りの中で、揺れ動く気持ちが、とても共感できる形で、表されていて、見事だなぁと思いました。


あの忘れられた巨人の中にも出て来た「本当に愛し合っているカップルをどう見分けるのか」とか、日の名残りの中にも出て来た、「夜寝る前に二人で飲む、暖かい飲み物のひと時」のこと等、暖かいものが通い合う二人のシーンに、読んでいてホッとしました。

物語の半ばくらいから、強烈に湧き上がってきたのは、
「この人たちは皆例外なく、自分たちの宿命を粛々と受け入れて命を全うしようとしている。何故、あの人たちは、同じ人間でありながら、自分たちの宿命を受け容れようとはしないのか。受け容れずともいいと誰が決めたのか…」という怒りのような
気もちです。

物語の中の登場人物が、誰一人、そのような告発をしないので、多分読み手の私の中に、その怒りが湧き上がるのだと思います。

そのような展開になっていることも、本当に見事だと思いました。
そして、そこから派生して、色々なことを考えてしまう物語でした。

命という括りで見る時、
「家畜」ならいいのか。「弱者(能力がない)」ならいいのか。等々。
内容は、苦しくなるほど重い内容なのに、読んでいて苦しくなかったのも、
見事だと思いました。