「「免許停止」を匂わせた郵政省
しかし、この椿発言問題では、「間接規律」であるはずの地上波の「施設免許」が停止可能であるという見解を、郵政省が初めて示した。当時の担当局長が、「政治的公平を定めた放送法違反があれば、電波法第七六条によって電波を止めることもできる」と発言したのである。
放送法第四条「国内放送法等の放送番組の編集等」は、番組の編集について、①公安及び善良な風俗を害しないこと、②政治的に公平であること、③報道は事実をまげないですること、④意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること― を定めている(これを「番組編集準則」という)。
このうち②の政治的公平が問題視されたわけだが、この規定については実証が困難であり、「放送事業者の倫理的なもの」との見解が政府答弁などで示されてきた。従って、違反に対する直接の罰則規定はない。
後述する安倍政権とテレビメディアをめぐる大きな論点の一つでもあるが、政府も過去、この「政治的公平」については「精神的規定」であることを国会答弁などで認めて来た。(略)
しかし、一九九三年一〇月二六日、郵政省は一斉再免許を電波監理審議会に諮問した際、テレビ朝日に対しては「事実関係が明らかになった時点で改めて関係法令に基づき必要な措置をとる」との条件をつけた。
一年後の一九九四年八月二九日、テレビ朝日は、「報道局長発言特別調査委員会」報告書を郵政省に提出し、調査結果を公表した。報告書は事実経過、調査事項と方法、調査結果と結論、今後の対策など七章立て二四ぺージの本編と一六九ページの資料編で構成された。
「特定の政治意図に基づく指示または示唆があったか」では、椿氏の国会での証言、選挙報道責任者からのヒアリング、報道番組の制作プロセスの検証などから「元局長(椿氏)の指示、示唆は全くなされていない」とした。(略)
椿発言問題の余波から、BRO設置へ
椿発言問題は「政治とテレビ」の関係に大きな影響を与えた。
在京テレビ各社は、社内に報道の在り方を検討する組織を設けた。日本テレビの「報道ガイドライン研究会」、フジテレビの「テレビジャーナリズムの在り方に関する研究会」、テレビ東京の「報道倫理委員会」などで、テーマは「公平・公正・不偏不党」「取材のあり方」「報道の自由と基本的人権」「キャスターの役割」など多岐にわたるものだった。(略)
また日本新聞協会は、一九九四年度の新聞協会賞(編集部門)に産経新聞の「政治報道をめぐるテレビ朝日報道局長発言」のスクープ」を選んだ。これに対して、放送番組調査会の外部委員であった清水秀夫氏らが「産経新聞への受賞をとりやめるべき」との要望書を出すなど反対の声が寄せられたが、結局、受賞した。(略)
言論機関である民放連の会合内容を暴露し、報道局長の証人喚問にいたった原因となった記事を、同じメディアである新聞界が表彰することには疑念の声があがった。(略)」
何故そうなってしまうのか…。
あの山一のやり方を、国ぐるみでやっているのが、今の日本の政府ではないのかと。