読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

安倍官邸とテレビ

産経新聞が報道にいたる経緯について、私はこう考えている。組織の常として、会議に代理出席したものはその内容をメモし、上司である正規の出席者に報告する。場合によっては関係セクションで回覧をする。

くだんの放送番組調査会でも、民法関係者の中に代理出席者があった。この出席者が作成したメモが何らかの経路を経て産経新聞に渡ったと思っている。代理出席者に悪意はなく、メモが独り歩きした結果だったのだろう。


いずれにしろ、産経新聞の報道からわずか二週間足らずで、報道局長が国会で証人喚問されたのである。産経新聞の報道以降の郵政省からの矢のような電話とFAXの嵐、与党議員からの慇懃無礼な問い合わせなどが次々と思い出される。権力がむき出しになった時の怖さを痛感する。


この問題で終始、権力の介入を批判し続けた清水秀夫氏は、二〇一三年に亡くなった。清水市の著書に「言論の自由はガラスの城か マスメディアの自由と責任」(三省堂、一九九九年)がある。


権力によってガラスのようにもろく崩れる危機に、テレビは直面していたのだった



NHK番組改変事件

椿発言問題を「野党に転落した自民党の新人議員」として体験した安倍氏は、初当選から七年、二〇〇〇年に森内閣内閣官房副長官に就任。二〇〇一年四月に成立した第一次小泉純一郎内閣でも内閣官房副長官に就任した。


その森内閣での官房副長官時代に、安倍氏が直接かかわったのが、NHK番組改変事件だ。NHK教育テレビ「ETV2001 戦争をどう裁くか 第2回 問われる戦時性暴力」が政治的圧力によって改変され、通常の放送時間より四分短く放送されたという前代未聞の出来事である。(略)



取材の中心は、二〇〇〇年一二月二「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン、現・「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクション・センター)が主催した「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷(略称・女性国際戦犯法廷)」で、そこでは、従軍慰安婦など日本軍の戦時性犯罪について昭和天皇や旧日本軍司令官ら計一〇名が提訴された。採集判決では、提訴された一〇名は人道に対する罪で有罪であるとされ、日本政府の責任も認められた。



この「女性国際戦犯法廷」を取り上げることを知った右翼団体が、放送前から連日、NHKに街頭宣伝を行なうなどの動きを示していた。そうした中で、番組の「改変」が行われたわけだ。(略)




”政治介入”を訴える内部告発

裁判の舞台が東京高裁に移る中、朝日新聞がスクープを放った。二〇〇五年一月一二日の朝刊で「NHK慰安婦」番組改変  中川昭・安倍氏「内容偏り」 前日、幹部呼び指摘」と報道したのだった。


中川昭一氏は当時、慰安婦問題などの教科書記述を調べる研究会「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」代表で、官房副長官でもあった安倍氏は同会元事務局長た。


記事は「今回の事態は、番組編集についての外部からの干渉を排した放送法上、問題となる可能性がある」とした。安倍氏は、取材に対して「偏った報道と知り、NHKから話を聞いた。中立的な立場で報道されねばならず、反対側の意見も紹介しなければあないし、時間的配分も中立性が必要だと言った。国会議員として言うべき意見を言った。政治的圧力をかけたこととは違う」と答えている。



翌一三日には、番組の担当プロデューサーだった長井暁氏が記者会見をして、内部告発を行なう。その配付文書の骨子は、次のようなものだった。



・二〇〇一年一月下旬、衆議院議員中川昭一氏と安倍晋三氏らが、NHKの国会・政治家対応の担当局長らを呼び出し、「女性国際戦犯法廷」を取り上げたETV2001の放送を中止するよう強く求めた。自民党総務部会でのNHK予算審議を直前としていたこともあり、事態を重く見た担当局長は、放送前日一月二九日の午後、放送総局長を伴って、中川・安倍両氏を議員会館に訪ね、番組についての説明を行ない、理解を求めた。


・しかし、中川・安倍両氏の了解は得られなかった。そこで放送総局長は「番組内容を変更するので、放送させてほしい」と述べ、NHKに戻った。放送総局長は、その日の午後六時過ぎから、既にオフライン編集(仮編集)をアップしていた番組(通常、これ以降の番組内容の変更は行われない)の試写を担当局長と番組制作局長と共に行ない、番組内容の変更を制作現場に指示した。



・そのときの主な変更内容は以下の三点。①「女性国際戦犯法廷」が、日本軍による強姦や慰安婦制度が「人道に対する罪」を構成すると認定し、日本軍と昭和天皇に責任があるとした部分を全面的にカット、②スタジオの出演者であるカリフォルニア大学准教授の話を数か所カット、③「女性国際戦犯法廷」に反対の立場をとる日本大学教授のインタビューを大幅に追加。



この指示を受けて、制作現場では既にオンライン編集(本編集)を終えていたVTRの手直し作業を深夜に実施。この結果、通常四四分の番組は四三分という変則的な形となった。


:しかし、番組の改変はそれだけにとどまらなかった。放送総局長は、放送当日の一月三〇日の夕方、既にナレーション収録・テロップ入れなどの作業が完了し、感性間近となっていた番組の内容をさらに三分かットするように制作現場に指示。その指示とは、


①中国人被害者の紹介と証言 ②東ティモール慰安所の紹介と元慰安婦の証言、③自らが体験した慰安所や強姦についての元日本軍兵士の証言、この三つをカットせよ、というものだった。これを受けて制作現場ではVTRの手直し作業が行われ、通常四四分の番組は四〇分という異例の形で放送されることになった。


・こうした二度にわたる政治介入にともなう番組の改変によって、番組内容はオフライン編集完了時とは大きく異なるものとなり、番組の企画意図は大きく損なわれることとなった。


こうした行為は放送法第三条の「放送番組は、法律に定める権限にン基づく場合でなければ、何人からも干渉され、または規律されることがない」に違反する不正行為であることは明らか。


:私は、一連の不祥事を経て作られた「NHKコンプライアンス通報制度」に基づいて通報を行ない、この不正行為を調査し公表するよう、NHKコンプライアンス推進室に求めた。推進室からは「調査することになった」との連絡を受けた。しかしその後、調査は進展せず、通報後一カ月を過ぎた今日にいたっても、関係者へのヒアリングすら開始されていない。


このことから、末端の職員の不正行為は直ちに調査し公表しても、海老沢会長(当時)やその側近がかかわる不正行為については、調査し公表しないことが明らかとなった。制作現場への政治介入を恒常化させてしまった海老沢会長と、国会・政治家策を担当する役員や幹部の責任は重大。


・以上の点から私は、NHKが真の改革を実行し、視聴者の皆様の信頼を回復するためにも、最低限今回の不正行為についての調査を厳正に行ない、これを公表し、海老沢会長と全役員が責任をとるべきであると考える。」


〇 「NHK番組改変事件」を読みながら、どこかで聞いたことがある内容だと思い、
捜してみました。内田樹著「こんな日本でよかったね」の中にあった、「言論の自由と時間」の中で、まさにこのことが語られていました。