読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

安倍官邸とテレビ

「(4) 前代未聞の「テレビ局呼びつけ」

個別番組についての事情聴取

二〇一五年四月一七日、自民党「情報通信戦略調査会」が、NHKテレビ朝日の経営幹部を党本部に呼びつけた。「情報通信戦略調査会」は個別テーマごとに三〇を超えて設定された党内の調査会の一つで、会長は川崎二郎議員である。


NHKは「クローズアップ現代」、テレビ朝日は「報道ステーション」の放送内容について「事実関係を聞いた」(自民党幹部)というが、個別番組についての事情聴取で、与党が党本部にテレビ局幹部を呼びつけるのは前代未聞である。



クローズアップ現代」は、二〇一四年五月一四日に放送された「追跡”出家詐欺”~狙われる宗教法人~」で”やらせ”疑惑が指摘された件について、「報道ステーション」は、二〇一五年三月二七日の放送でコメンテーターの古賀茂明氏が自身の番組降板に言及した際、「菅官房長官をはじめ、官邸のみなさんにはものすごいバッシングを受けてきました」とはつげんしたり、”I am not ABE"と書かれた紙を掲げるなどした件について、事情聴取を受けたわけである。(略)



ほかの番組も、「自民党「異例の聴取」」(フジテレビ系「LIVE 2015 あしたのニュース&すぽると!」)、「与党内からも懸念の声」(TBS系「NEWS23」)など、批判的な見出しが躍った。(略)



「呼びつけ」をめぐる三つの論点

さらに、NHKに対しては、総務省が二〇一五年四月二八日に「厳重注意」を行ない、五月二一日には自民党が再度、NHKを呼びつけた。
この件については、三つの論点がある。



一つは、いうまでもなく、政権党が個別番組の件で放送局を呼びつける異常さである。放送法は、第一条「目的」の二号で「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」と定めている。


本書第一章で述べたように、この主体は明示されていないが、文脈から「行政」であることは明らかである。であれば、総務省は、放送局の自律を妨げ、公権力の介入という形で表現の自由の確保を妨げる自民党に対してこそ「放送法違反」の行政指導を行うべきだ。


二つ目は、私が確認した限り、この「呼びつけ」についてNHKが一切報道しなかったことだ。四月一七日の「報道ステーション」で、「呼びつけ」られた自社の福田俊男・専務取締役の囲みインタビューも含め、この問題を詳しく報じたテレビ朝日との差は大きい。



メディアのあり方が問題視されるような事案があるのであれば、そのことを自ら伝えることが絶対に必要だ。そうでなければ、市民はメディアを信頼することができないし、メディア規制の動きすら知らないままとなる。



三つ目は、第一次安倍政権を彷彿とさせる「行政指導」ぶりだ。「クローズアップ現代」については、曲がりなりにもNHKが既に報告書を出し、BPOの審議対象にもなっていた。それに対して、さらなる行政指導を行うことは、メディアの委縮効果を生むだけではないか。



BPOの意見書が自民党の「政治介入」を批判

BPOは二〇一五年一一月六日、「NHK総合テレビクローズアップ現代」”出家詐欺”報道に関する意見」を公表した。(略)

その結果、これら二番組は重大な放送倫理違反があったと結論付けている。
この番組については、放送から一〇ヵ月たった二〇一五年三月、「週刊文春」が、内容がやらせであるとする告発記事を掲載。その取材を受けた出演者が四月一日付でNHKに訂正放送を求めた。



NHKは四月三日に調査委員会を立ち上げ、同月九日に「中間報告書」を公表している。この間の同月一七日に、自民党NHKテレビ朝日を呼びつけたわけである。
このような政治介入について、BPO意見書は「おわりに」で明確にノーを突きつけた。



意見書は、憲法二一条の表現の自由を引いたうえで、放送法の目的を定めた第一条二号「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」を引用する。


この条文について、意見書は「しばしば誤解されるところであるが、ここに言う「放送の不偏不党」「真実」や「自律」は、放送事業者や番組制作者に課せられた「義務」ではない。
これらの原則を守るよう求められているのは、政府などの公権力である」と解説する。総務大臣が「行政指導」の根拠とした放送法の番組編集準則などについても「これらの条項は、放送事業者が自らを律するための「倫理規範」であり、総務大臣が個々の放送番組の内容に介入する根拠ではない」と、政治介入を明快に批判している。」