読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

安倍官邸とテレビ

「(5) 自民党勉強会での「妄言」

オフレコだからでは済まされない

二〇一五年六月二五日に開催された、自民党の第一回「文化芸術懇話会」。安倍首相の側近議員を中心とする勉強会で、出席した自民党議員や講師をつとめた作家の百田尚樹氏が、数々の”妄言”を発した。
主な発言を列挙しよう(朝日新聞デジタル版・同年六月二六日「「マスコミ懲らしめるには…」文化芸術懇話会の主な意見」より)。


「マスコミを懲らしめるには、広告料収入が無くなるのが一番。政治家には言えないことで、安倍晋三首相も言えないことだが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」(大西英雄衆議院議員


「福岡の青年会議所理事長のとき、マスコミをたたいたことがある。日本全体でやらなきゃいけないことだが、スパンサーにならないことが一番(マスコミは)こたえることがわかった」(井上貴博衆議院議員



「本当に沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん。沖縄県人がどう目を覚ますか。あってはいけないことだが、沖縄のどっかの島でも中国にとられてしまえば目を覚ますはずだ」(百田氏)


「もともと普天間基地は田んぼの中にあった。周りに何もない。基地の周りが商売になるということで、みんな住み出し、今や町の真ん中に基地がある。騒音がいうるさいのは分かるが、そこを選んで住んだのは誰やと言いたくなる。



基地の地主たちは大金持ちなんですよ。彼らはもし基地が出て行ったりしたら、えらいことになる。出て行きましょうかと言うと「出て行くな、置いとけ」。何がしたいのか」(同)


「沖縄の米兵が起こしたレイプ犯罪よりも、沖縄県っ全体で沖縄県人自身が起こしたレイプ犯罪の方が、はるかに率が高い」(同)


講師の百田氏がどのような人物かは、当然、自民党は知っていたはずだ。前述のように、安倍首相の肝煎りでNHK経営委員に指名されたことは周知の事実であり、首相との共著も刊行している。この「沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん」発言の後も、自身のツイッターで「私が本当につぶれてほしいと思っているのは、朝日新聞毎日新聞東京新聞です」と述べている。(略)



これらの発言に対して、六月二九日、日本新聞協会が「特に政権与党の所属議員でありながら、憲法21条で保障された表現の自由を蔑ろにした発言は、報道の自由を否定しかねないもので到底看過できず、日本新聞協会編集委員会として強く抗議する」との抗議声明を発表。同日には、民放連も「報道機関の取材・報道の自由を威圧しようとする言動は、言論・表現の自由を基盤とする民主主義社会を否定するものであって容認しがたい。


とりわけ、与党自民党の国会議員からこれらの言葉が発せられたことは誠に遺憾である」との会長コメントを発表した。


沖縄と本土メディアの”距離”

この問題は、私的勉強会レベルの話ではない。自民党全体の問題だ。同じ二五日に予定されていた「過去を学び「部厚い保守政治」を目指す若手議員の会」は、漫画家の小林よしのり氏をゲストに読んでいたが、自民党幹部からの圧力で中止になった。


小林氏は憲法改正論者だが、それゆえに、憲法解釈の変更で集団的自衛権を容認しようとする安倍首相に対して批判的だった。小林氏は取材に対して「わしは安保法制反対だから呼ばなかったんだ。(自民党幹部は)議員を信じていない。わしと議論したら負けるとおもっているのだろう」(毎日新聞、二〇一五年七月二一日朝刊)と語っている。つまり、裏を返せば、自民党は党の方針として「文化芸術懇話会」を開催したのだ。



報道の自由の根っこにあるのは、少数意見の尊重である。東京から見て「少数」である沖縄の意見を「つぶせ」というのは権力のおごりであって、民主主義の根幹を理解していないといわざるをえない。(略)



キャスターの鋼板を求める意見広告

二〇一五年一一月一四日の産経新聞と、一五日の読売新聞に、「放送法遵守を求める視聴者の会」が「私たちは、違法な報道を見逃しません。」と題する意見広告を出した。だが、その内容は、TBS系「NEWS23f」のキャスター、岸井成格氏への個人攻撃であった。
意見広告の冒頭の文面を採録する。


「メディアとしても(安保法案の)廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」
二〇一五年九月十六日放送のTBS報道番組「NEWS23」で、メインキャスター(司会者)を務める岸井成格氏(以下、岸井氏)は、こう発言しました。



私たち国民は、国民主権に基づく民主主義のもと、多様な情報や意見を広く見渡しながら、政治判断をしてゆく必要があります。その為、放送法第四条では、放送局に対して「放送番組の編集」にあたって、「政治的に公平であること」や「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」を要求しています。(中略)
右記の岸井氏の発言は、この放送法第四条の規定に対する重大な違反行為だと私たちは考えます。




彼らが言うように、岸井氏の発言は「放送法第四条の規定に対する重大な違反行為」なのだろうか。
二〇一四年総選挙時に自民党が出した「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」について述べた項で指摘したことを、ここでもう一度、繰り返しておきたい。


放送法が報道局に求める「政治的な公平」は、単一番組で必ず実現すべきものではない。政治的な公平は、一定期間に流された放送番組全体で判断すべきものなのである。アンカーやキャスターのみならず、出演者の発言の自由は当然、放送法でいう「表現の自由」に属する問題だ。個々の発言や番組をとらえての「放送法違反」はありえない。従って、この意見広告は明らかに「個人攻撃」にあたるものなのだ。」