読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

キゲイキ

〇 新刊本にはなかなか手が出せず、「キケイキ2」もかなり前に、図書館に予約しました。
やっと自分の番になり、読むことが出来ました。
読みやすくすぐに引き込まれました。


もうすぐ返さなければならないので、印象に残った言葉をメモしておきたいと思います。

「恰好はというと、高価な赤い錦地の直垂のうえに、紫ステッチのグラデーションが素晴らしく、裾の鋲も凝りまくった安く見積もっても六百万はするだろう鎧を長めに着て、兜もはっきり言って八百万くらいは軽くしそうなのをずぼっと深くかむり、だからバランスから考えても当然、太刀は黄金造り、矢も蝦夷産の鷲の羽を使った最高級品、弓もそう。馬も奥州産の真っ黒で巨大な馬だし、それに載せる馬載品も黄金をふんだんに使った、誂え取り寄せ別作りの、馬と合わせて億いくでしょうね、って感じで、どうみても大将軍、の風格を漂わせまくりたくっていたからである。」



「都育ちの貴人である頼朝さんに獣皮の上に座る習慣はない。私ですら秀衡君のところで獣皮の上に座らされることはなかった。だから頼朝さんは本当のことを言うと、獣皮の上ではなく、畳の上に座りたかったはず。にもかかわらず頼朝さんが獣皮の上に座っていたのはなぜか。
居並ぶ関東の大名小名に気を遣っていたからである。」


「「ところが無理なんだよ。っていうのは、もし僕自身が京都に行って御覧なさい。関東はがら空きですよ。まだ僕に従ってない佐竹とかがこれを見逃すはずがありませんからね。私は忽ちにして根拠地を失います」
「じゃあ、あなたは関東に残って誰か別の者を行かせればいいじゃないですか」
「まあ、そうなんだけれど、そうしたらそうしたで、そいつが平家と或いは院勢力と結びついてこっちの叛旗を翻してこないという保証はどこにもないわけだからね」」



「というのは悪口、っていうか、もうはっきり嘘なのだけれども梶原景時の嫌なところは、そうして一方的な悪口を書くだけではなく、ときに相手を褒めて、いかにも自分は客観中立です、みたいな立場を取りつつ、最終的には悪口を言う、みたいな手口を使う。例えば。

「判官殿は天才的な戦術家です。一ノ谷はムチャクチャ攻めにくい城塞で、敵の防備態勢は完璧でした。そのうえ、こちらの兵力は敵の半分以下でした。あなたにこんなことを言うのは釈迦に説法ですが、城を攻略するためには最低でも相手方の倍の兵力が必要、というのが通説です。


そのうえ私たちはあのあたりの地理に不案内で、誰がどう考えても勝てる戦争ではありませんでした。それを判官殿は、少数の騎兵を率いて鵯越という、ここを馬で駆け下りようと思う人がいたとしたらその人は完全なキチガイでしょう、みたいな断崖を駆け下りて敵陣に攻め込みました。敵にしたらまったく予期しないことで、慌てふためいた敵は混乱に陥り、我が軍が勝利したのです。紙一重の天才、としか言いようがません」
と書き、また、(略)



と持ち上げたうえで、
「というのも彼が下の者にも優しく、皆の身の上を案じ、贔屓をせず公平公正な扱いをするからなのですが、なんのためにそんなことをするのでしょうか。他のひとは気がついていませんがこの梶原は知ってしまいました。なぜか。はっきり言いましょうか。言いましょう。


野心です。野望です。判官殿の目指すはただ一つ。西日本総追捕使となってあなたと東西で並び立つことなのです。そうしたうえで院庁との結びつきを強め、その権威を系に最終的には、奥州の秀衡さんと共同して北と西からあなたを圧迫しよう、と考えているみたいなのです。」



「頼朝さんの私に対する恐怖を知った。(略)
ばかっ。おまえは九郎がどんな男だか知らないのか。僕はいまこの瞬間、この畳の隙間から九郎が出て来て、「兄さん、こんにちは」と言ってへらっとわらっても、まったく驚かない。九郎っていうのはそういう男なのだぞ」
と言うのが聞こえた。」



「頼朝さんはついに私を誅戮する腹を固めた。(略)
「あいつは院庁に近すぎる。べったりといっても過言ではない。そしてその院庁の権威を背景にして西国諸国に大きな影響力を持ち始めている。いまのうちに潰しておかないと将来に禍根を残す」」