〇 映画の「日の名残り」は好きでした。
印象的だったのは、いわゆる「召使い」であるスティーブンスが
とても誇り高くプライドを持っている、ということでした。
どこかの「偉い人」の話ではなく、「取るに足らない端役」が、それにも関わらず、
その状況の中で自分の役割を果たし輝きがある…そこにスポットが当たっているのが、いいと思いました。
また、いわゆる身分差がある社会の中で、身分は身分としながらも、人間の尊厳のようなものは、対等に扱われている所も、好きでした。
執事という仕事の前に、プライベートな感情を完全に封じ込め、親の死や淡い恋心など、全く態度に出さないスティーブンス。
最後までそれを封じ込めることを自分に課し、それを成し遂げたことに勝利感を持つ。
この本の中で、スティーブンスは、ダーリントン卿は、例え過ちだったとは言え、自分でその道を選んだ。でも、自分は、そのダーリントンを信じただけで、自分ではなんら選択しなかった、というようなことを言っています。
私がこの映画を見た時には、スティーブンスは、自分でこの生き方(執事の職に殉ずる)を選んだのだと思っていました。
だから恋心も封じ込め、執事であることに徹したのだと。
「その瞬間、私の心は張り裂けんばかりに痛んでおりました。」
人は自分が思っている以上に自分の心を知らずに生きている、と
思わされました。
取り返しがつかない時間。
だからと言って、「公衆の面前で衣服を脱ぎ捨てる」生き方は出来ない。
もう一度「生き直したとしても」、スティーブンスは同じようにしか
生きられないようにも思えます。
私は、せめて、そのことを知っているミス・ケントンがいて良かったなぁ、と思ったのです。そんな「二人の物語」が私は好きだったのだと思います。
小説を読み、映画で感じたものは、やはり間違いなくあると感じました。
それがあるので、読んでいてとても楽しかった。
毎日少しずつ、時間を見つけて読んだのですが、その世界に「行く」のが
楽しみでした。そんな小説は最近ではあまりありません。
今日、読み終わったので、感想を書きました。
また、次の機会に、心に残った言葉をメモしようと思います。