読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

財政破綻後 危機のシナリオ分析

〇小林慶一郎編著 「財政破綻後 危機のシナリオ分析」を読みました。

「編著」とあるように、著者はその他に、小黒一正・小林康平・佐藤主光・松山幸弘・

森田朗の五名で、第一章から第五章までを執筆しています。

第1章 人口減少時代の政策決定

第2章 財政破綻時のトリアージ

第3章 日銀と政府の関係、出口戦略、日銀引き受けの影響

第4章 公的医療・介護・福祉は立て直せるか?

第5章 長期の財政再構築

そして第6章 経済成長と新しい社会契約 を、小林慶一郎が執筆しています。

 

序章には、「なぜ破綻の「後」を考えるのか?」として

財政破綻が起きるとき、日本社会に何が起きるか、また、財政破綻の「後」に社会を立て直すためにどうすべきか。

本書は、経済学的な考察や、たとえば医療現場などの現状分析を通して、破綻の結果、日本の国民生活がどのように変化するのか、また、関連する制度をどのように改変すれば最小のダメージで破綻を乗り切ることができるのか、などの論点を議論する。

 

したがって本書は、財政危機に際して人が自分の財産をどう守るか、というような個人の観点ではなく、日本の社会制度をどう立て直すのか、という制度設計者や政策立案者の観点から書かれている。」

 

とあります。

 

実際に日本の社会制度の設計や立案にかかわって来た専門家が、どう考えているのか

知りたくて読んでみたのですが、こちらの理解力が足りず、専門的なことについては、

ほとんどわからなかった、というのが、本当の所です。

ただ、経済学の格言「フリーランチ(ただ飯)は存在しない」とか、「財政再建低所得者など、社会的弱者の切り捨てになるべきではない」などの、専門家でなくとも普通に頷ける部分が所々にあるので、それを拠り所に読みました。

 

図書館に返却する日も近いので、第6章から、少しだけ、メモしておきたいと思います。

 

「第6章

経済成長と新しい社会契約

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本章では、財政破綻をめぐってわれわれが学ぶべき経済政策的な教訓と政治思想的な課題を検討する。

第1節では、日本において財政破綻のリスクを高めて来た要因として、過去30年間に及ぶ政策選択の構造的な問題を論じる。

第2節では、「経済成長を先に実現し、財政再建は後にする」というこれまで30年間続いた日本の経済政策の基本哲学を批判的に検討し、財政破綻のリスクが日本の低成長の原因になっている可能性を指摘する。さらに、政府債務増加と成長率低下が相関するという実証研究(パブリック・デット・オーバーハング)を紹介する。

 

第3節では、世代間協調問題(現在世代が制作実施コストを支払うと、将来世代がリターンを得るような政策課題)を通常の民主主義の政治システムでは解決できないことを論じる。このような問題は、保守主義の政治思想(エドマンド・バークなど)ではよく知られた政治のテーマであるが、リベラルな政治哲学、とりわけ、社会契約論の文脈では適切に取り扱われていない。その例としてジョン・ロールズの「正議論」を取り上げる。

 

 

第4節では、世代間協調問題を解決するため、将来世代の利益を代表する行政機関などの組織、すなわち「仮想将来世代」を創設すべきだという提案を紹介する。仮想将来世代の創設を政治思想として正当化することを、ロールズの枠組みの拡張によって試みる。

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1 危機の30年

本節では、日本において財政破綻のリスクを高めて来た要因として、過去30年間に及ぶ政策選択の構造的な問題を論じる。とくに、経済成長と財政についての基本的な考え方に問題があったのではないかという経済政策論の問題と、政治システムの問題として、まだ生まれていない将来世代の利益を現在の政治の場で擁護することができないという「世代間協調問題」の重要性を指摘する。

 

財政の破綻が起きることを前提に、どのように日本を立て直すのかを考えるのが本書のテーマであった。第6章では、破綻が避けられないとして、その後に再生する日本経済のために、私たちはどのような教訓を学び取るべきか、何を後世に残すべきなのか。この点を経済と政治の両面で考えたい。

 

 

◎経済成長の問題

経済面で、財政破綻に至る大きな要因は、早期の財政再建への着手が出来なかったことである。財政再建に早期着手できなかった背景には、「経済成長が先、財政再建は後」という過去30年間続いている政策の基本哲学があった。(略)

 

この管、一貫して政府が採用した基本的な政策方針は、まず財政出動などによって経済成長を回復し、その後に財政再建を行うというものだった。財政出動によってあえて政府債務が増加しても、経済成長が回復すれば税収も上がるし、景気が回復した後で増税すれば財政再建は問題なく実現できるので、財政再建を後回しにして経済成長をまず実現するべきだ、という考え方であった。

 

 

しかし、2018年現在、景気は戦後最長の拡大局面にあって税収も増えてはいるが、政府債務の増加を止めるにはまったく不十分な金額である。成長による税の増収効果で財政再建が出来るためには、実質経済成長率が最低10%程度になる必要があり、それが実現する可能性はほとんどないと思われる。

 

 

景気が回復しても債務の増加が続く現状は、第一に「成長が先、財政再建は後」という基本哲学の妥当性について、疑義を提起しているといえる。本章第2節では、「政府債務の増加が経済成長を停滞させる」可能性を、実証研究や理論モデルをもとに考察する。

 

 

ここからのメッセージは、「将来に対して責任ある政策対応をしなければ、現在の繁栄(経済成長)も実現できない」という教訓である。(略)

長期的にコストなしに経済成長を手に入れようというのは、「フリーランチ(ただ飯)は存在しない」という経済学でよく知られた格言にも反している。

 

 

 

30年に及ぶ財政再建先送りの末に破綻が起きるとすれば、それはこの経済学の常識を超長期の時間軸で実証する一大実験だったということになるだろう。その授業料は日本の経済社会にとって途方もなく高くつく。

 

 

◎政治システムの問題

財政破綻がわれわれにもたらす政治的な教訓は何だろうか。本章第3節と第4節では、このことについて考察を進める。

税制や財政をめぐる政策判断は、政治という活動のg非常に大きな部分を占めている。財政再建が先送りされ続けた理由は、経済政策上の技術的な判断(「先に成長を実現すれば財政再建も後で実現できる」)だけではなく、そもそも現在の有権者たちが財政再建のためのコスト負担を嫌がったからである。

 

 

財政再建にかかわるコスト負担は、有権者の暗黙の選択の結果として(まだ選挙権をもたない)将来世代の人々に先送りされることとなった。財政危機が意識され始めた1990年代末からの20年間にわたって、このような暗黙の政治選択が繰り返されてあのである。

 

 

 

将来世代に対するコストの先送りという現象は、さまざまな政策分野で共通に見られる、現代の政治を特徴づける弱点と見ることができる。財政再建のコスト、地球温暖化のコスト、原子力発電所の核廃棄物処理のコストなど、人間の生活に重大な影響をもたらすかもしれないコストについて、現在世代では十分に対処されることなく将来世代に先送りされている。

 

 

これらの問題に共通するのは、問題の時間軸があまりにも長期化しているため、政治の決定に参加できる同一世代の中だけでコストとベネフィットの分布が収まらなくなっているということである。

 

財政再建や温暖化対策を現在の政治が決定し実行するならば、コスト負担は現在世代に降りかかるが、ベネフィット(財政再建後の経済の安定や、地球環境破壊の防止)を得るのは現在世代よりも将来世代である。現在世代にとってみれば、「コスト負担を求められるだけで、見返りのベネフィットは何も得られない」という構造になっていることが、財政問題や地球環境問題という超長期の政策課題の難点なのである。このような構造の問題を、「世代間協調問題」と呼ぼう。

 

 

政治面で、財政破綻の危機がわれわれに突きつける問題は、現在の民主主義のシステムが世代間協調問題に対して基本的に無力である、という事実である。(略)

 

 

したがって、世代間協調問題に直面すると、民主主義の政治システムでは、どうしても将来世代へのコストの先送りが生じやすいと考えられる。この先送りを防止するためには、民主主義システムのなんらかの「補正」が必要である。このことが、財政破綻がわれわれにもたらす政治的な教訓といえよう。

 

 

本書執筆時点においては、日本の財政破綻は起きておらず、数年程度の近い将来において財政破綻が起きる可能性も少ない。市場関係者が想定するように、対外純債務国になったときに危機が顕在化して財政破綻が起きるならば、日本で財政破綻が起きるまでにまだ数十年もの時間的余裕がある。この期間のうちに、本書で論じるような経済政策の基本哲学と政治システムの抜本的改革を行うことが求められているのではないだろうか。」

 

〇この本は「専門家」によって書かれています。専門家には専門家の論理展開の道筋というのが、あるのでしょう。だからなのだとは思うのですが、読みながら、「魂の抜けた言葉」を聞かされているような虚しい気持ちになることが度々ありました。

 

おれおれ詐欺」で、お金を稼ぐのは明らかに間違っています。そんなことは、誰もが知っているはずです。でもここでは、なぜおれおれ詐欺は良くないのかと「冷静に」「論理的に」立証するのを聞かされているような… そんな感覚になってしまいます。

 

冷静に論理的に、良くないと立証された時、おれおれ詐欺はなくなるのか…そんな絶望的な気持ちになってしまいます。