読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

街場の天皇論

〇 山本七平著 「昭和天皇の研究」の最後の方に、美濃部博士の言葉が紹介されていました。

 

「……すべて国家には国民の国家的団結心を構成する中心(国民統合の象徴)がなければならず、しかして我が国においては、有史以来、常に万世一系天皇が国民団結の中心に御在しまし、それに依って始めて国家の統一が保たれている……(略)」

 

という箇所ですが、ここを読み、この「万世一系の…」という言葉に

なんとも言われない嫌悪感を感じました。

美濃部博士は、「正統な」という意味で使っているのでしょうが、

近頃は、日本会議のメンバーによって、盛んに吹聴されるので、

多分、そのことへの嫌悪が甦るのだと思います。

 

その辺りのことに関してまとめてある記事を検索していて、こちらのブログ記事に

たどり着きました。紹介させてもらいます。

 

麻生氏発言…ナチスばりの妄想背景

美濃部博士は明治6年生まれの方です。時代背景や様々な状況の変化によって、その言葉がどんなニュアンスを帯びるのかも違ってくると思います。

そこをもう少しスッキリさせたくて、内田樹著 「街場の天皇論」を読んでみました。

 

内田氏の言葉は私のような一般庶民にもわかりやすく書いてあるので、

助かります。内田氏のブログからの転載記事もたくさん載っているので、

それ以外の記事の中から、印象に残った言葉をメモしておきたいと思います。

 

「 はじめに

 

みなさん、こんにちは。内田樹です。

今回は「天皇論」です。

タイトルを見て意外の感に打たれた方も多かったと思います。僕だって、まさか自分がこんなタイトルの本を出すことになるとは思っていませんでした。

 

 

ずいぶん前にある出版社から「中高生でもわかる天皇論」を書いてくれないかという申し出がありました。十代の少年少女たちにもわかるように、噛んで含めるように天皇制の歴史と機能について説明するというのは、なかなか面白そうな企画に思えました。そういうふうにものごとの根源に立ち返って、制度文物の成り立ちについて考えるという作業は僕をとても高揚させますから。

 

 

残念ながら、そのときは他の仕事が忙しく、「そのうちに……」と言っているうちに企画そのものが立ち消えになってしまいました。(略)

重ねて申し上げますが、本書の中ではっきり「天皇論」と銘打てるようなモノグラムは2016年8月の天皇陛下の「おことば」をめぐるいくつかの文章だけです。(略)

 

 

ご記憶でしょうけれど、国民の多くは「おことば」を天皇の真率な意思表示として共感をもって受け止めましたが、安倍政権は苦い顔をして天皇の大尉の意思表示を受け止め、陛下の要望に反する有識者会議の報告を以てこれに報いました。

 

 

天皇は政治的発言をすべきではない」という原理的な立場から、これを手厳しく批判した人たちは保守派にもリベラル派にもおりました。その中にあって、「おことば」は憲法の範囲内で天皇の霊的使命を明文化しようとした画期的な発言であり、これを奇貨として古代に淵源を持つ天皇制と近代主義的な立憲デモクラシーの「共生」のかたちについて熟考するのは国民の義務であり権利でもあるというふうに考えるものは少数にとどまりました。

 

 

僕はこの少数派の立場にあります。(略)

たしかに(まことに幸いなことに)戦後70年余、天皇制が政治的不安定や秩序壊乱の原因になることはありませんでした。「天皇の名」による政治的弾圧もテロもありませんでした。

 

 

けれども、それは日本国民が天皇制について熟慮し、国民的に合意した精妙な手立てによって天皇制を制御してきたからではありません。実際のところ、日本国民は天皇制については何もしなかった。深く考えないままに放置していただけです。(略)

 

 

ですから、僕は陛下の「おことば」は日本人が天皇制について根源的に考えるための絶好の機会を提供してくれたものと、感謝の気持ちを以て受け止めました。国民が考える仕事を怠っていたので、天皇陛下の方から「たいせつな制度なんですから、皆さんもきちんと考えて下さい」とボールを投げてくれた。

 

 

 

この「ボール」をどう受け止めるか、それについては、いろいろな受け止め方があると思います。(略)

けれども、その問いに取り組むことは間違いなく日本国民にとって政治的成熟の絶好の機会です。「ああわからない、わからない」、と頭を抱えて考え抜くことの方が、「正解」を誰かに教えてもらって、それを書き写すよりずっと生産的であるような問というものがあります。

 

 

 

「立憲デモクラシーと天皇制の共生はいかにあるべきか?」というのは、そのような根源的な、そしてきわめて生産的な問いの一つです。(略)

僕はこの本がそのような思索のきっかけになればと思って、この本を出すことを決めました。そういうふうに読んでいただければ嬉しいです。ではまた「あとがき」でお会いしましょう。」