読んだ本のメモ

印象に残った言葉をメモします。

天皇の戦争責任(第二部  昭和天皇の実像)

「私的領域

 

橋爪 それでは次に、先に述べた六つのポイントのうち、一番目の「家庭に関する行動」について、できるだけ簡単に説明してみます。(略)

「お局制」とはどういうものかというと、独身の女性が局というかたちで天皇の日常生活に奉仕し、ずっと宮中に住んで、一種の後宮のようなものになるわけです。昭和天皇は、大正天皇の正妻の子どもですけれど、天皇に即位すると、彼の意思でこの「お局制」を廃止し、お局部屋に住む正親町典侍ら古手の局たち四十九人を青山御所の官舎に移してしまった。

 

 

そして、いわゆる核家族と言いますか、通常の市民と同じかたちの家族を今後は営むと決意して、宮中改革を行った。(略)

その次に重要なことは、時期が前後するけれど、彼はたくさんの子どもを良子妃とのあいだにもうけていますが、良子妃に生まれたのはどういうわけか最初の四子まで、全部、女子(内親王)だったんです。(略)

 

 

それまでの慣行によれば、二子、三子ぐらい、続けて女子が生まれたりすると、たいてい側室をあてがわれて男子の誕生を期すということになる。実際、昭和天皇も遠回しに進められただろうと思うけれど、これを断固拒否して、忍耐を重ね、ようやく明人親王、すなわち、いまの天皇をもうけている。(略)

 

 

加藤 いままでの天皇戦争責任論というのは、天皇に対する無知や先入観によって非常に弱いものになっていると思うので、以下、できるだけ昭和天皇については公平かつ謙虚でありたいと考えています。(略)

いま橋爪さんは昭和天皇が普通の市民と同じような在り方をもとうとしたことを評価すると言われたけれど、それは勘所が違っているのではないでしょうか。

 

 

たとえば、昭和天皇は、日本の天皇制をイギリスやオランダの君主とくらべてみたため、お局制なんていうことをやっているかぎりは、日本の君主制は非常に遅れたアジアの野蛮な国の段階にとどまっている、で、これじゃいけない、と考えた、そう昭和天皇の行為を理解することもできる。(略)

でも、それを裏付ける材料がないかぎりは、一般の市民のようなかたちに近づけたいと考えたというよりは、むしろ西洋の立憲君主のあり方に近づけたいと考えたのではないか、とそう考える方が妥当であるように思う。

 

 

橋爪 そういう文脈があることにあえて反対はしません。ただ、そのふたつは矛盾するものではないと思う。」